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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■23

暇だな、そういえば最近自分のための時間ってろくに無かった
いつも「予備校」と「受験」を良いわけに逃げていたのかもしれない
DVDでも借りてみようかな、CDもレンタルしたいのあるし。
もう2時半か。今日は予備校も無いし、1日のんびりしよう、勉強は夜でいいかな。

とりあえず僕は真っ直ぐ家へ帰る、ちくしょう、冷房ついて無いのかよ、
「ただいま」、声をかけても誰も何も言わない
「ただいま!!」・・・なんだよ、出かけてんのかよ。

部屋のドアを開けて乱暴に僕は戸を閉める
壁にかかっているのはカレンダーと、ポスター。あともう一つ。

「絶対合格!F大、K大!」

いきなり、学校から帰ってきたら自分の部屋にこんなのがかかっていた
母さんに聞くと、佳奈子の、いや妹の習字教室の先生が
「俺のためにー」書いてくれたそうだ
「やっぱり「先生」が書いた字は違うわ、うまいわね。
加奈子あんた下手なんだからちゃんと練習しなさいよ。」と母さんが言っていた
加奈子は、妹は「えー面倒くさいな、やりたくない。」
と駄々をこねて、ブスッと膨れ面でソファでファッション雑誌を読んでいた

その半紙に書いたスバラシイ字を、僕は母の言いつけで壁に画鋲でさしている、というわけだ
「あんた、せっかく先生が書いてくれたんだから、ちゃんと飾りなさいよ!!」
そう言う母の声が耳に響いていた。

F大、K大、か・・・
無理に決まってんだろ、行けるわけないじゃんかよ。
何が「俺のため」だよ、しょせんは自分達の見栄のためなんだろ、くだらない。
くだらない くだらない くだらない くだらない

「お前、さすがだな、勉強出来てたしな。羨ましいよ」

今になって啓太のあの言葉が甦る、繰り返される
・・・やめろよ、啓太。お前まで俺をバカにするのかよ。
いいかげんにしろよな。俺にはF大もK大も無理なんだよ。

「さすがだな、羨ましいよ」「勉強出来てたしな」

やめろ やめろ やめろ やめろって。
分かってるって、啓太は悪気があってそう言ってるんじゃない
アイツは心の底から大学生生活に憧れて、大学に行く余裕のある俺を羨ましがっていた
アイツは、
アイツは・・・

啓太は中学から成績があまり良くなく、テスト前や受験の時は俺が一から教えてやっていて
それで、なんとか県内公立のチャリで行ける高校に行けることになった

「俺、妹や弟にはちゃんと大学とか行ってほしいからさ、家計助けないと」

俺には分からない。
意味も無く、有名私大に入って大学生活を過ごすのと、
家族のために大学を諦めて、家計を助けるのは
どっちが偉いのだろう。



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