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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■8

ホタルの目に浮かんだ涙は、透きとおっていて
少しでも触ったら壊れてしまいそうで触れることすら出来なかった

案の定、僕はハンカチをスッと差し出すような紳士でも無く、
抱きしめて、甘い言葉をありったけ言うような優しい男でも無い

ただ、ただホタルの泣き顔を見つめて
彼女が泣き止むのを星を数えながら待っていた

夏の夜風に冷やされたコンクリートの地べたに座り、
隣で嗚咽をあげながら、泣くホタルの背中を時々、さする

改めて、辺りを見回すとガラクタばかり落ちている
どっかの工場の廃材、らしきものや
建設現場の足場、っぽいものや
無意味としか考えられないでっかいコンクリートの壁

さっき、ホタルと走った時 どれだけの距離を走ったんだろう?
猛スピードで走ったんだから、普通に考えれば
どんなに走っても2、300メートルで息が切れてしまう
でも、2〜300メートル程度なら あの時、よじ登ったフェンスくらい見えるはず
辺りには何も無い
ガラクタと、伸びきった草と少しの木々。
フェンスは?フェンスの向こうの住宅街は?
ここは、どこなのだろう。


確か、だいぶ前にもあの、フェンスを登って「こっち側」に来たことがある
いつだっただろう?
小6。いや、中1かな?そのくらいだった

そうだ、友達と。誰だったっけ?
あっ、啓太だ。
そう、啓太と淳平だ。
肝試しとか、言って夜にフェンス前に集まって・・・!

「カズマ?」
ハッと僕は現実世界に引き戻された。
ホタルのまだ、赤い腫れた目がまっすぐにこっちを向いた
「カズマ、どうしたの?」
小さな唇、ほんのりと桜色で彼女の白い頬によく映える
「いや、ちょっとね・・・昔のこと、思い出してたんだ。」

「昔のコト?」
「そう、昔と言っても中学生の時のことだけどね。
僕、前もここに来た事があるんだ。」


「・・・知ってるよ。」
「え?」
僕が驚き、戸惑いの表情をホタルに見せた
「カズマが、昔ここに来たこと。私、ちゃんと覚えてるよ。」



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