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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■33

僕が目を覚ますと、いつも乗り越えていたフェンスの前に寝転がっていた
僕はパッと立ちあがり、フェンスの向こうを見た

青々とした、だけど無意味に伸びきった雑草と大きな木々はすでに元の形をしていなく、
枯れ果てた草むらと、木々だけが僕の眼に写った

哀しくは無かった、ただ切ない思いだけが僕の胸に溢れてきた

幻なんかじゃない、現実だ。だってまだ唇に余韻を感じる
ホタルの薄くて柔らかい小さな唇に僕は熱を送った。そしてホタルの小さな熱を感じた気がした

僕は何も言わずに、眼を伏せてフェンスを背にして歩き始めた
ポケットを探ると、あめが二つ、入っていて一つ足りなかった
もしかして、ホタルが・・・。そう思うと地面にオレンジの味のあめの袋のゴミが落ちていた
僕は不思議と可笑しく思えて来て、一人でクスクスと笑った

時計を覗いてみると、針が進んでいた
壊れてたんじゃ無かった
ぼくはホタルに一本取られたような気がして笑った

「ゴミは自分で持って帰れっつーの。」僕はそう呟いてホタルが落としていった袋をポケットに詰め込んだ
東の空から、朝陽が射し込んできた。西の空を見ると、金色に光る星がいくつかまだ輝いていた

「そっか、もう朝だ」
僕はそう思って家へと走り出した、
ホタルのことは絶対に忘れない、あれは幻なんかじゃない。
またいつか会える・・・そんな気がした。
走っていくともうすでに電気がついている家があった
ウチはどうだろう、父さんとか母さん起きているかな。
何て言い訳すればいいんだろう、加奈子にも何か言われそうだしな。

まあ良いや、そんな事・・・

僕は家へ走って帰る途中、ホタルのことを思い出した、涙は出てこなかった
ホタルの言葉がぼくの中で何度も繰り返し響いた「愛してる」。

今でもぼくの中で変わることなくホタルは笑ったり、泣いたりしている
けっして幻なんかではない恋・・・
小さな冒険と、儚く語り続けられる恋の物語は終わることなく僕らの中で続く。

終わったんじゃないよ、これからも続くよ。
ぼくもホタルのこと忘れない。絶対に。
過去も、未来も、今も、変わらずに愛してる。
届くといいな、ホタルに。

圭太や淳平になんて言おう、あいつらビックリするだろうな、そう思うと笑えて来た

東の空を見たら、太陽がのぼっていた
ホタルは夜だけしか輝くことが出来ない、と言っていたけど
僕の心の中では昼も、夜も、朝も、いつでも眩しいくらいにホタルの笑顔が輝いてる

ホタルが言っていたように、僕にも糸が見えた気がした。
金色の、細くて強い糸が今も僕らを繋げている


左手の小指に僕は優しくキスをして、家の扉をゆっくりと開けた



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