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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■21

10時56分、「ちょっと早すぎたかな」と僕は店内に入る
クーラーがきいていて汗ばんだ体が気持ちいい

僕は下の階でコーヒーとハンバーガーを一つずつ買って2階へ上がる
夏休みってだけあって店内は中高生でいっぱいで、座る席が無いように見える
僕が席を探し、キョロキョロしていると、視界の端っこで啓太が手で僕を呼ぶ

僕は軽く、手をあげ、合図をして啓太の待つ席へ向かい、正面に座る
「早いじゃん、もっと遅いと思ってた」

僕はいつも遅刻魔の啓太に嫌味を含めてそう言い、意地悪く笑う
すると啓太は顔を少し歪めて、「そう?」と言い苦笑いをする

「で、何だよ。話って。」僕はそう言いながら、コーヒーの蓋を開け、ミルクと砂糖を入れる
「あ、あぁ・・・あのさ、」
「なんだよ、じれったいな。」

「中学1年の時、き、肝試ししたじゃん?あの工事現場っぽいとこで。」
啓太は引きつりながら話を続ける
「あそこ、あったんだってよ。」啓太は目をそらしつつ僕に語る
「あったって・・・何がだよ。」

「殺人、事件。」啓太は声をひそめる

「サツジン?殺人・・・?」
「そ、殺人。なんか陸上部のエースの女の子が
練習で毎晩、走ってたんだって、あの周りを
したら、暴漢に襲われて、ナイフで・・・」

僕は嫌な予感がした 背筋が何だか寒くなって来て、コーヒーを一口飲む
「暴漢に、襲われて、で犯人の男がバレナイように、体を、刻んで・・・」

啓太は俯いて、話すのをやめた。
僕もただならぬ感情が波のように押し寄せて来ていた
お互い、黙ったままの沈黙が少し続いた

「で、細かく刻んだ体を、フェンスの向こうに投げ捨てて・・・」

僕は、口に何かを含んでないと恐ろしくって、またコーヒーを一口飲む
啓太も、僕を見て僕が来る前に買っておいたであろう、Lサイズのコーラを飲む

「で、でもさ、俺らは肝試ししただけだし、
何も、関係無いんじゃねえの??」僕はそう言って、全てを無かったことのようにする

「お前・・・本当に何も覚えてないのか?」啓太は心配そうな瞳でこっちを見る
「え?」
「だから、あの事。覚えて無いのか?」
「あのこと?」僕には何も覚えが無い

僕はゆっくりと目を閉じる、そして過去へと記憶を戻す
中学1年生。5年前のまだ何も知らなかった頃へ

「おい、早く行こうぜ。ビビッテンのかよ?」淳平はチャラけた感じで柵の上をよじ登ろうとする
「やべえ、盛り上がってきた」啓太も意気揚々として目を輝かせる
僕はぼうっと、眠いな、とか星がキレイだ。
なんて考えながら柵をのぼる

「あ、夏の大三角形」
ベガと、アルタイルと、もう一つはなんだっけ。こと座?忘れちゃったな。
こんな時間に普段は夜出かけないからな、新鮮だ。
こんなチカチカと明るい街を見るのは慣れない。祭りでもこんなんじゃ無い。

「待ってよ、早えよ。」啓太が淳平を追いかける「ばーか」と淳平は遅い僕らを見て笑う



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