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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■9

フフッとホタルは、不敵の笑みを浮かべる
「えっ・・・?それってどういう・・・」
僕が言いかけた途端、ホタルは立ち上がり服の泥を手で掃った

ホタルは僕のほうに振り向いて、ニコニコしながらまた言う
「カズマ、追いかけっこしよう。先に、カズマが鬼だよ。」
そして、ホタルはまた 夜の彼方へと走り出す

僕は、聞き足りないホタルへの質問を投げ捨てて、
立ち上がり、走り去ろうとするホタルを追いかける

廃材の影からホタルがひょっこり顔を出し、こっちだよ。と挑発する
僕は少しだけ笑い、ホタルの方へ走る

すると、ホタルは後ろに回りこみ、また隠れようとする
でも、隠れる前に僕がホタルの足音を聞きつけ 後ろを振り向く

目が合い、「バレちゃった。」と言わんばかりに、ホタルは笑う。つられて僕も笑う

また、ホタルはちょこまかと走る 隠れる 走る 隠れる
僕もその度にホタルを追いかける 見つける また追いかけて 見つける
クタクタになっても、僕は追いかける   ホタルも走って、逃げ続ける

「こっちだよ、カズマ!!」
僕を軽く挑発して、僕はまたホタルを追いかける


その時、シャラ、と足元で音がして何かが光った
僕は立ち止まって、足元に落ちたものの泥を手で掃う
暗くてよく見えないけど、銀のネックレスらしい

これは、何だろう?
「ホタル、これ落としたよ。」
ホタルの掌に、ちょこん、と乗せて、ソレをホタルはまじまじと見つめる

「あっ、ありがとう。・・・大切なものなの。失くすとこだった。」
ホッとした表情を見せるホタルは、とても月夜に可愛らしく映った

僕は、走りつかれて汗だくだと言うのに、ホタルは呼吸一つすら乱していない
内心、すげぇ体力だよな。
並みの体じゃぁこうは行かねぇな。なんて考えながらぼうっとしていた

ホタルは自分の細い首に、ネックレスをつけようとして、僕はホタルの後ろに回り、
首に手をかけて、小さな金具同士をくっつけてやる

フワッと夏の匂いがする。
あ、可愛いな。と僕はしみじみ思う。
抱きしめてしまいたいな、と僕はホタルの白いうなじを見て、思う。

抱いてはいけない感情を理性で必死に抑えようとする


月がゆっくりと下に下りてくる
いずれ朝日が昇ってくる
あと少しで、夜が明ける

あと少し、あと少しだけ。こうやって2人で居させて
もうちょっとだけ、もうちょっとだけ・・・

僕はそう思いながらフワッと彼女を後ろから抱きしめる

あと、少しだけ。と甘い匂いと囁きが暗闇と共に溶けていく

もう少しだけで良いから

そばに居させて



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