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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■2

あっ、まだまだ行けるじゃん。
自分に感心しながら2メートルは軽くある柵をよじ登る、少しだけ手が痛い
「よいしょっとぉ。」ジャンプで下まで落ちる

伸びきった雑草
散らばった鉄や、金具のひとつひとつが月に照らされている

そういえば、最近こんな風に遊んだりしてなかったよなぁ、
受験受験って周りからせかされてて
久しぶりの開放感、眠気も吹き飛ぶ
夜風のせいかな?

散らばった大きな鉄筋に腰を落とす
星が綺麗だなぁ、星座とか詳しくないけどあれだけは知ってる

『・・・夏の、大三角形?』


木のざわめきの中に、微かな小さな愛らしい声が聞こえた気がして
恐る恐る後ろを振り向くと
青白い月に微笑みをぼんやりと浮かばせる
虚ろな目をしたロングヘアーの女の子が居た

さすがの僕もこれは驚いて言葉が出ない
「っー・・・?君は・・・?」
少女は、サラサラの腰ぐらいまである髪を、風になびかせて口元だけで笑う
「知ってるのは、夏の大三角形だけ?」
ゆっくりとした口調で少女は問いかける
「・・・うん。」
僕は思わず、問いかけに答えてしまった
そうすると少女はニッコリ、顔じゅう笑って僕のトナリに座った

よく見ると、すごい顔立ちが整っていてキレイな子だった
小さい子だと思っていたけれど、
僕より3つ、4つぐらいしか変わらないように見えた

不思議と、恐くなかった。
むしろ、安心感が沸いてきて、少女の瞳に吸い込まれた

「君は・・・いくつ?」思い切って僕が尋ねる
「じゅう・・・よん」
「14?じゃぁ、僕より4つ年下か、まだ中学生なんだね。
名前は?」
「・・・名前?」
「そうだよ、名前。教えて。」
「・・・ほ、蛍。」
「ほたる?いい名前だね。」


「あ、あなたは?」
「え?僕?」
「あなたは・・・なんて名前?」
少女から、いや「蛍」が自らたどたどしく聞いてきた
「僕は、大庭 和馬って言うんだ。よろしくね。」
「カズマ?」
「そう、和馬。平和の〈和〉に〈馬〉って書くの。」
「・・・カズマ。」

蛍のぱっちりとしてる穏やかな目が僕に向けられる
夏の夜の空気が僕を包む
鼻の奥の方がツンとする、木々と、太陽の残り香が僕を惑わせる

蛍が口元に少しだけ微笑を浮かべて、僕の隣で星を見上げる
大きな夜空に輝く星たち、ポッカリと浮かぶ満月

今、夜が、ゆっくりと幕を開けた。



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