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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■16

その後、僕は家に着いて冷えた麦茶を飲んで、読書をしたり音楽を聞いたり
普通の夏休みを過ごしていた

本を半分読み終えた頃には、もう予備校の時間で遅れるとこだった
遅れるとめんどくさくなるから、早めにいつも行ってんだけど。

予備校から帰ってくると、時計は10時をまわっていた

夜がはじまる
ホタルは今ごろ何をしているのだろうか。
普通の中学生だったら宿題をしたり、友達とメールをやりとりしたり、
好きなドラマを見たりしているんだろうけど
どうも想像がつかない。

僕の中でのホタルは、フェンスの中、という区切られた場所で
一人、月明かりを浴びながら蛍と一緒に戯れたりしているところしか想像できない

檸檬色の満月の光を体に巻きつけて
深い深い、インディゴ・ブルー。藍色の闇の中で薄く笑う、ホタル。

すぐにでも泣き出しそうな瞳でこっちに微笑みかける、ホタル。
すらっと細い、折れそうな手足をちまちまと動かせて見るものの目を引き付ける

ホタルの白い柔らかな肌には、月の光が反射して彼女の体を通す
長い、漆黒の髪には、夜の星の輝きを、浮かび上がらせて優しく、風に靡かせる

薄汚れた裸足の足で、地に堕ちた天使のように、意味深な目つきを備えもち、
背中には、翼が片方しかないから飛ぶ事は出来ず、
彼女に残された、二つの足で、一歩ずつ歩き出す。駆け抜ける。

薄い唇には、鮮やかな桜色を。
彼女の瞳には、すみれの色を。
長いまつげには、夜の悲しみの露を乗せて、
ひんやりと冷たい手先には、僕の体温を分けてあげる

天使じゃない、悪魔じゃない、死神じゃない、神様でもない。
ホタル、君は一体なんなんだい?

もしかしてただの、普通の女の子では無いのかもしれない。
僕はとんでもないのに心を奪われていまったのかもしれない。


窓を開けると、夜風が僕の体をゆっくりとぬくもりを奪っていった




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