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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■10

ホタルの背中は小さくって、僕の両腕にすっぽりとおさまる
ホタルの匂いがする、夏の雨の前に感じるあの匂い。
彼女の手が、肩が、足が。全てが僕に包まれる

このまま、ずっとこうしていたい
死んでしまっても構わない。
時が止まってしまえば良いのに・・・

ホタルを抱きしめると、他の欲望がどんどん湧いてくるのが僕の底から感じた
欲望のまま、行動出来ればどれだけ良いのだろうか。
でも、それとは裏腹に、ホタルを傷つけてしまうことになる。

僕はどうしたら良いのだろう。
分かってる、この手を放せば良いんだろう。
でも、抱きしめていたい。離したくない。傍に居て欲しい。

「−−−−ホタル・・・」
僕は、そう呟いてまたホタルをより強くギュッと抱きしめた

「カズマ・・・?」

ホタルが、僕の腕を掴みながら、キョトンとした声で僕に囁いた
「・・・カズマ?どうしたの?」

頭が、ぼうっとする。
まるで、酔ったかのように。
酒は、未成年だからあんまり飲んだこと無い
でも何回か、友達と遊び感覚で飲んだ事がある。
あぁ、そうだ。あんな感じだ。

アルコールが、体を巡って、脳に達する
ボンヤリとして、フワフワと宙を漂うかのような
そうだ、あんな感じだ・・・

閉じていた目を パチン、と開ける
ホタルが、不思議そうな顔でこっちに視線を向ける
「ごめん。何だかぼうっとしていたみたい。」
僕は言い訳がましく、そう言って彼女を縛っていた両腕をカラダから放す

空は、薄くまだ闇がかかっている。
夜明けまで、あと30分も無さそうだ。


ハッと、ホタルが何かに気づいたかの様にして、
僕の腕を握り締め、急いだ様子で、僕に言う
「カズマ・・・大変。帰ろう。早く。」
「・・・どうしたの?何かあったの?」

「早く帰らないと、夜が明けちゃう!!」
ホタルは僕の腕をガッシリ掴む。
「・・・ホタル?」
「朝が、来る前に、早く行かなきゃ・・・!!」

ホタルに何があったのかは、僕は分からない。
だけど、このまま突っ立ってたらホタルが困ることだけは分かった

「よし、行こう。夜が明ける前に。」
僕もそう言い、ホタルの手を握りしめた
汗ばんだ、小さな冷たいあの手を握りしめて、僕らはまた走った



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