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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■3

蛍は、太陽というより月という感じがした
不思議なオーラが漂う、神秘的な夜の女の子
夏の夜だけ、輝くことが出来る「蛍」、
名前がピッタリだな、と心の底から思った

「良い所に、連れてってあげようか。」ホタルが僕に言った
「良い所?」
「そう、良いところ。誰にも秘密にするなら連れてってあげる。」

僕はホタルの繊細な、中に秘めている力強さに圧倒されて、
思わず一言だけ言った

「・・・・・連れてってよ。誰にも言わないから。」

そう僕が言うとホタルはサッと立って僕に手を差し伸べる


「早く行こう、夜が明けちゃうよ。」


僕も立ち上がって彼女の小さな汗ばんだ手を握る

「どうやって、行くの?」当たり前の疑問を彼女にぶつける
フフフ、と彼女は薄く笑いながら握った手を優しく絡めさせた



「手、しっかり握っててね、はぐれちゃうから。」彼女が弱々しく僕に言う

「大丈夫だよ、はぐれちゃうってほどの距離や場所じゃぁ無いでしょ?」
僕は元気付けるつもりで明るく彼女に言う
すると彼女は、いや、ホタルは首を横に振り小さくうつむき呟いた
「離したら、ダメ。   二度と会えなくなっちゃう。」
悲しげにうつむくホタルの手を、僕はしっかりと握り直し、
余った片腕で、彼女の頬に優しく触れて 必死に優しい、甘いコトバを言った

「この手を、離さないよ。ずっと。」
「本当に?ずっと?」
「うん、ずっと。ずっと。」

広がる草原に大きな風が吹く 全てを吹き飛ばすかのような冷たい大きな風が鳴る
木々がざわめく 泣いているように、悲しげに。
僕らの声を、掻き消すかのように

「キレイな手・・・生きてるのね、カズマ。」
僕の手を見つめて 彼女は小さい、誰にも聞こえないような声で言い放った
僕は、ソレを聞かなかったことにして、僕は彼女の白く 冷たい手を見つめた

ホタルの小さな手を僕はギュッと、離さぬように ほどけぬように握りしめて誘う
「連れてってよ、≪良いところ≫に。」

「−−−−うん。・・・カズマ走るよ。」

返事をする間も無くホタルは走りだした
夜の闇を切り裂く、コウモリ ハヤブサのように。さっそうと
景色を見る余裕も無く
上を見るとただただ星がキレイに瞬いているのだけが分かった



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