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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■27

伸びきった雑草、ところどころにある大きな木。無意味としか思えないコンクリートの壁
そして、ホタルの吐息。
風のざわめきと共に夜の冷たい空気に染込んでいく

息を切らした情けない僕にホタルは優しく笑う
月がきれいだ。ホタルとは逆光だけど、ぼんやりと写るホタルの笑顔が
声にならないくらい、きれいで。僕はただ何も言わず笑っているだけだった

僕達はぺたん、と鉄筋の上に座り込む
そしてゆっくりと話す、星のこと、自分のこと、最近考えたこと

星空を見上げて、僕らは言葉を失くす。
伝えたい事がまだたくさんあるのに言葉にならない
言いたい気持ちがたくさんあるのに、言葉に出来ない。
少し、感傷的な気持ちにさせる夜空。月の輝き。ホタルの微笑み。

沈黙がつづいてホタルはいきなりパッと立ち上がって、こっちに手を差し伸べる
「カズマ、追いかけっこしよう。」
さっきのように、逆光で、ぼんやりとしかホタルの顔が見えない。
ああ、でも。それでも何てきれいなんだろう、と僕はゆっくり空を横切るかのような気持ちになる

僕はホタルへ手を伸ばして、立ち上がる
ホタルはニコッと笑って「カズマが先に鬼だよ。10秒数えてから来てね。」と唐突に言っては走り出す、
僕は言われるがままに10秒数えて、ホタルを探しに、走り出す

壁から壁へ、
右に行っては左へと
あっちからこっちへ、
影を見つけて、追いかけて、逃げられてー
僕らは一生こんな感じのままなのかな、なんて少し思ってまた走る

それでもいい、と開き直ってまた探して走る
見つけて、追いかけて、隠れて、脅かして、驚いて、また、走って。
そんなことをずっと繰り返していた。
僕は少し疲れて、歩いてホタルを探す

見つからないように、足音をたてないように、ゆっくりと息をひそめて。

壁をつたって、歩く。壁にはえげつない落書きがしてある
それでもなんだか愛しく思えて来て、僕はまたホタルを探す

何分かして、やっとの思いでホタルを見つける
僕はばれないように足を忍ばせてホタルに近づく
ゆっくり、ひっそり、こっそりと、手を伸ばしてタッチして、次はホタルが鬼。と。

あと、少し。3メートル、2メートル、ホタルは気づいて無い
壁に手を当てて、向こう側へ顔を出して、僕が来ないかどうか探ってるらしい
あと、2メートル、1メートル半。1メートル。
ゆっくりとホタルとの距離を近づける。

僕が手を伸ばそうとしたら、思わず下の石を蹴飛ばしてしまった。
やばい、音がー、

ホタルはハッとこっちを振り向いて目を丸くする
僕はその拍子で、つまづく
「キャアッ」
どさっ、と鈍い音がして、僕はゆっくりと目を開ける

ホタルが僕の下で、潰れそうになっていて、僕はホタルの上に乗っている
「痛たたた・・・」とホタルは片目だけ開けて頭をさすりながらそう言う。

「ごめん!大丈夫?ケガ無い?」僕がホタルにそう問いかけるとホタルは大丈夫よ、と言う様に
ウインクをしてピースサインを僕に送る
ホッとした僕は、体勢を直して、べたんとコンクリートの床に座り込む
ホタルは、倒れた時のまま、冷たいコンクリートを下に、寝転がって空を見上げる

「少し、休もうか。」とホタルは僕に言う。僕はホタルの横に同じように寝転がる。
夜が、少しずつ更けていく、時間がもっとあればいいのに、そしたらもっと自由にホタルといれるのに、と考えていた



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