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夜を駆ける2  [作者:あつこ]

■12

前方で小さな灯りが見えた
ホタルの足がピタッと止まった。

足元の感触が変わる。
さっきまで草だったのが、コンクリートに変わってる

「カズマ?」
ホタルが僕の手を両手で握りしめながら呼びかける
「あ、あぁ。ごめん。なあに?」 ぶっきらぼうに僕は答える

「朝が来るよ、早く。戻って。」
真剣な目でホタルは僕に訴える

東にまぶしいオレンジ色の朝日が昇ろうとしている。
「うん・・・ホタルは大丈夫なの?戻らなくて。」
「私は大丈夫、あとから行くから。だからカズマ・・・
早く、戻って・・・」

白い彼女の手が呪文を解くかのようにパッと僕の手をほどく
彼女の手の冷たさが、まだ微かに僕に残っている。

「ホタル・・・?」
「早く!!早く行って!!!」
ホタルはすごい剣幕で僕を追い払う

僕はフェンスに飛び乗る
ガシャン ガシャン と朝もやの中に響く
てっぺんまで登って僕は最後にホタルを見つめて言う

「ホタル、また来るね。」

ホタルは悲しげな微笑みを浮かべて僕に笑いかけ、手をふる。
「カズマ、お願いがあるの。
今日のこと、誰にも言わないで。お願い。」

「分かった、まかせて。絶対誰にも言わない。」

「カズマ!!」ホタルが僕を呼ぶ

「えっ?」

「大好きだよ。カズマ。」薄く笑いながら僕に小さく言う

手に触れたい、抱きしめたい、キスをしてしまいたい
フェンスを降りて、彼女を縛り付けてしまいたい。

「僕も、大好きだよ。」僕も本心をサラッと言う
冗談なんかじゃ無く、本当に大好きなのだから。

「カズマ、行って。早く。」
「うん、またね。」

僕はフェンスを飛び越えドシン、と地面が響く

またね、・・・か。とぼんやり呟きながら空を見上げる
明るいオレンジ色のそら

朝が来て、僕が手に入れたものは
少女の小さな微笑みと、
僕の指に絡まっている確かな赤い糸の存在だけだった



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