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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 15

足取りは軽かった 話したいことがいっぱいあった
並木道をくぐりぬけると秋風が冷たく私を包んだ
私は立ち止まって辺りをキョロキョロ見回した

人影を見つけると私は左手に持ったまだあたたかいコンビニのビニール袋を持ってそこへ走り出す

「こんにちは!」私がそう言うとその人はゆっくりと優しい声で「こんにちは」と言ってくれた
私はその優しい声が大好きで、なんだか嬉しくなる

「これ、さっきコンビニで買ってきたんです、良かったら一緒に食べませんか?」
私は底の方が熱くなった、ビニール袋からあんまんと肉まんを出す
「悪いですね、いや・・・ありがとうございます。」
「にくまんとあんまん、どちらが好きですか?」
「余ったほうで良いですよ」その人は優しく言う
「え、・・・じゃぁ、私、あんまんで。」なんだか恥ずかしい。
「おいしそうですね、ではありがたく。いただきます」

その人は礼儀正しくお礼を言い、食事のあいさつをしてホカホカの肉まんをほおばる

そういえば、圭ちゃんとよく食べたなぁ。
冬になったら一緒に、コンビニで買ったりしたね。
私も圭ちゃんも『あんまん派』でお金が余り無い時は一つのあんまんを二つに分けて食べた
それは温かくって、心までぬくぬくしてきて、

「久しぶりです、こういうの食べるの。」その人は懐かしい感じで食べかけの肉まんを見つめる
私は現実に引き戻されたような感じで相槌をうつ
「普段は、何を食べてるんですか?」
「たいしたもの、食べてないですよ。冬になると野菜ばっかりのスープをつくったりして体を温めるんです。」

スープ、圭ちゃんがよく作ってくれたよなぁ。

「肉まんとかも、ここ数年食べてなかったんですよ。」そう言いながら軽く笑っていたけれど、
確実に、声は笑っていなかった


その人の口元も、声の感じも、話し方も、みんなみんな圭ちゃんそのものだった。
昨日ちょっとだけ見えた目も、なんだか圭ちゃんに似ていたような気がした

似ている、本当によく似ている。
でも、まさかそんなわけあるはずない。

私はそう言い聞かせて、話を続けた

その人の声は、聞いてるだけで温かい湯船に浸かっているような感じがして、
聞いてるだけで好きになってった

ああ、あたし。この人のこと、なんだかすごく好きだなぁ。
もっと知りたい、話してみたい。

そんなグルグルとした変な感情が心の奥底で蠢いていた

「・・・・圭ちゃん?」思わずそう呼んだ。



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