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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 11

子供たちが、キャアキャア笑いながら前を通っていく
主婦がスーパーの袋を手に持ちながら、子供と手を繋いで道を歩く
その子供は、母親の目を見て、小さな環境の変化を必死に話す
「見て、ママ。葉っぱが黄色になってるよ」
「ママ、ほら落ち葉、落ち葉。虫いるかな?」
「ママ、今日のばんごはんなあに?」
「あのね、今日ね。先生がね。」

小さな『当たり前』の日常を ニコニコと話しかける
母親は微笑みながら子供の言葉にうなずいて優しく声をかける
「ほら、道で走ったらあぶないよ」
「今日の晩ご飯はシチューだよ、寒いからね」
「そうだったの、楽しかったね」
「道をふさいだらダメだよ、じゃまになっちゃうからね」

普通の会話、あたりまえの話
子供たちは毎日が「はじめて」の連続で、それが楽しくっておもしろくって
母親は自分の過去の面影と照らし合わせながら、

「1日」「1日」を必死に、一生懸命に生きることが、どれだけ素敵なのか、大切なことなのか
私は知っている
でも、踏み出せないのだ
新しい恋人を見つけて、婚期を逃さぬうちに結婚して、子供を産んで、
そんなことが私には難しすぎる


「かわいいもんですね」旅人が懐かしいような声で言った
「ええ、本当に。小さい子はお好きですか?」私も相槌をうつ
「はい、もちろんです。あの頃は特にかわいいですよね」

そんな些細な会話をゆっくりと私たちは続けた
ゆっくり過ぎて、気づいたら夜になっていた
周りの住宅街から、カレーの匂いがして私は気づいた

「ああ、もう行かなくちゃ。今日はありがとうございます」私は立ち上がってお礼を言う
「良いんですよ、私も話せて楽しかったです。こういう身なりだと誰も近寄ってくれなくて」
旅人は悲しげに笑う
「そうなんですか、それは…。」私は何も言えなくなった

彼は、顔を上げて言った
「あなたは、恋人と仲良くしてくださいね」
優しくて、悲しくて、切ない声。
いったい彼には何があったのか、たぶん、誰も知らない
でも、私は少しでも、彼と苦しみを分かち合えた、それだけでいい。私は嬉しい

「ありがとうございます。」私はそうお礼を言う。圭ちゃんのことをまたチラッと思い出す

「恋人を・・・探しているんですよね?ってことはまだ当分この町に居るんですか?」
そう尋ねると、旅人は遠い方を見て
「そうですね・・・この町で、探してみるつもりです」とだけ言った

「見つかるといいですね、私にも協力出来る事があったら言ってくださいね
それでは、また。」
私はそう言ってさよならを告げて家へ帰った

空を見ると、雲であまり月や星が見えなかった
圭ちゃんは空を見て、月や星を見るのが好きだった
いろんなことを知っていて、私に優しく教えてくれた

久しぶりに、今日は彼のスープを作ろう。そう思いながら私は、アパートの階段をのぼった



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