スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 17

その日は夕飯も食べずにシャワーをしてすぐに寝た
心がどっぷりどマーマレードにでも浸かったようになって
すごくうっとりとしたような、気持ちになっていた

「彼女が今、幸せに暮らしているんだったらそれでもう良いんです」

壊れたスピーカーから狂ったように聞こえる、あの音楽のように
その言葉は繰り返し私の中で響いた

あの人は圭ちゃんなんじゃないか―?

あの声と口元と、声の感じと話し方も、考え方と穏やかな物腰
圭ちゃんなのかもしれない。

そうだ、あの人はきっと圭ちゃんだ。

だとしたらなんで、何で私にそんなこと話すんだろう?
優しい声がこぼれて私の耳にそっと入り込む

サイダー水の泡のようにシュパシュパ体内に入り込んで
水色という水色が体から溢れて来る

体からあふれてくる水色という水色、と考えたとこで
涙が出てきた。本当に溢れてきちゃった。と思いながらクスッと笑って私は寝た

夢の中で圭ちゃんが出てきた
一緒に手を繋いだ キスをした
一緒に並木道の下を歩いた
手を繋ぎながら歩いている途中、圭ちゃんの歩くスピードが遅くなってきた
私は「早く歩こうよ、遅れちゃうよ。」と何に遅れるのかは分からないけど
そう言って圭ちゃんを右手で引っ張る

私がそう言いながらどんどん後ろを振り向かずに歩いていると
圭ちゃんが重くなる
そして私は後ろを振り返る
圭ちゃんだと思って引っ張っていたのは地面に埋まっている丸太に紐が繋がれただけのもので
私はビックリして圭ちゃんを探す

すると、遠い後ろの方で圭ちゃんが立っている
「何してるの?こっちにおいでよ!早く行かないと乗り過ごしちゃうよ」と叫ぶ
圭ちゃんは寂しそうに笑って立ち尽くす
「圭ちゃん!ほら、こっち!行かないの?」私はそう叫ぶ
圭ちゃんの方へ歩こうとしても、足が鉛のように重くて踏み出せない

「圭ちゃん!圭ちゃん!・・・・・圭、ちゃん・・・・?」次第に声が弱くなる
「さなみ、ごめんね。幸せになってね。」圭ちゃんはそう呟く
あんなに小さくて儚い声なのに、あんなに遠くにいるのに、
圭ちゃんは叫ぶ感じも見られなかった
本当に寂しく呟いた声が私の耳にすっと届いた

圭ちゃんは後ろを振り向き、私に背を向けて遠く、遠くゆっくりと歩いていく
遠い遠い闇の方へ1人で歩いていく
違う、1人じゃない。圭ちゃんによく懐いていた野良猫も圭ちゃんに寄り添うかのようにして一緒に闇へ向かう

「圭ちゃん!待って!行かないで!」

猫が小さく鳴く

でも私がいくら叫んでも、泣いても、振り返りもせず遠くへ行ってしまう

そこで眼が覚めた
私はまた泣いていた



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