スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説SUGINAMI MELODY>25

SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 25

その時、歩いていた足が止まった
トレンチコートを着た、その男は肩を震えさせながらこっちをゆっくりと振り返る
深く被った帽子からこちらを覗く
帽子の端をくい、と軽くあげて彼はついに私に向けて真っ直ぐ視線を送る

ああ、やっぱり。

圭ちゃんだった。4年間という月日のせいか前とはちょっと違ったけれど
紛れも無く圭ちゃんだった

涙が出てきた、止まらない。
並木道の上からオレンジ色の光の粒が降り注ぐ

胸の中にあった、もやもやが不思議と軽くなっていた

その瞬間、私の足は動いて、彼の元へ全速力で走り出した
涙を拭くのを忘れていた
眼はもう、涙で溢れかえっていて前もよく見え無かった

私は圭ちゃんにありったけの力で抱きしめる
彼は驚いたような素振りをして、私を優しく抱く

「どこに、行くのよ・・・」涙が馬鹿みたいに出る
「・・・・・」彼は何も言わない
「どこにもっ、行かせないんだから。」

ああ、涙がなんでこんなに出てくるんだろう。子供みたいで嫌だ。

「寂しかったんだから、ずっと、ずっと、圭ちゃんのこと思い出しては泣いてたんだよ!!」

「圭ちゃん、もう嫌だ・・・私。もう、1人で待っているのは嫌だ」

彼の胸元に顔を擦り付ける猫のように私は彼を精一杯抱きしめる
少しでも気が緩んだら彼はきっと、私を置いて旅に出てしまう。
変かもしれないけど、そんな気がした。

「圭ちゃんが好きなの、圭ちゃんだけなの。
ずっと圭ちゃんしか私には居ないの。だから、お願い行かないで」

圭ちゃんの匂いは優しい海の匂い
懐かしいような、切ないような、
お母さんのお腹の中に居る様に優しく漂っている感じになる。

もう駄目、私壊れちゃいそう。圭ちゃんしか見えない。
圭ちゃんお願い、何か言って私を安心させて

もうワガママ言わないから。お願い何でもいいからなんか言って。

「さ、・・・・なみ。」
圭ちゃんだ、やっぱり、やっぱり、圭ちゃんだ。良かった、良かった
「バレてたんだ、格好つかないな。カッコよく立ち去ろうと思ったのに」

ボリボリと頭をかいて圭ちゃんは照れくさそうに笑う



↓目次

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】
【21】【22】【23】【24】【25】【26】【27】