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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 22

バスに乗っても、走ってる間も一つのことだけ考えていた
昨日の夢の続きが見れるような気がした
鉛のように重く、踏み出すことも出来なかった足はほどけて彼の元へと走り出す
彼もこっちを振り返り優しく走ってくる私を抱きしめる

バスを降りる、小銭をピッタリ、運転手さんに渡して私はまた走る

息を切らして、並木道の下に着く
圭・・・ちゃん?並木道の下には誰も居なくって、木漏れ日だけが木々の隙間から溢れていた

呼吸を整えながら、私はゆっくりと歩き始める
時間は?ケータイをポケットから出して、時間をチェックする
まだ、12時半。

野良猫が寄ってきた背中を擦り合わせて喉をゴロゴロと鳴らす
私はしゃがみこんで、そいつの背中や頭を撫でる

気まぐれなそいつは、満足したように私から離れていく
「またね」私は小さく『バイバイ』の形をして、再び歩く

圭ちゃんが居ない、何をしてるんだろう。どこに居るんだろう。何を考えてるんだろう?

もっと早く気づけば良かった、そうしたらあんなことにならないですんだのに。
後悔なんて今更遅い。
まずは、圭ちゃんだ

そういえば、私、あの人が普段どこで寝泊りをしているのかも知らない。
いつも私が通る度にあのベンチに腰をかけていて、
いつでも、ずっとこれから話しかけたら優しく答えてくれて 
涙ぐむ私を、あたたかく慰めてくれる。そんな風に考えていた


変な記憶が甦る、今さら何を思い出してるんだろうって自分でも笑える
圭ちゃんがいつもの青いギターで、どこか分からない国の歌を歌っている
「それ、誰の曲?ビートルズ?」洋楽では私はビートルズぐらいしか知らない
だからそう言うと圭ちゃんはクスッと笑って
「いつか、教えるよ」と言ってはぐらかす
そうしてまた歌いだす、あの青いメロディを掻き鳴らす
その音楽が心地よくって、私はいっつも聞き惚れる

何を今さら、思い出してるんだろう?
こんなこと、思い出したって、と自分を否定しようとする

だけど今度は他の圭ちゃんの言葉を思い出す
「自分を否定しちゃだめだよ、全てを否定することになってしまう。
さなみは自分を信じな、大丈夫だから」
私が悩んでいた時に圭ちゃんが言っていたコトバたち

それはいつも私の中で響いて、昔の甘い記憶を甦らせる

「圭・・・ちゃん・・・」私は25にもなって道端で1人で泣き崩れる
いつも大人になりきれないのだ。
圭ちゃんが居ない、私にはそれだけでも十分大きな理由になれる

結局のところ、私には圭ちゃんしか居ないのだ。



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