スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説SUGINAMI MELODY>24

SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 24

喉が、眼が、肌が、足が、すべてが
圭ちゃんの居場所を知っているかのように私は何も考えずに走った
どこに行けば会える、とかここに居るだろう、なんて計算しなかった
でも体が圭ちゃんの居場所を知っているかのようにして私を動かした

足は羽根のように軽く、心は夢のまま、鉛が圧し掛かってきたように重かった

さっきの夢が、正夢だったとしたら。
正夢になればいい。

「さなみ、愛してるよ」
普段なら口が裂けても言わないような圭ちゃんのコトバ
口にしないのは分かってる、言葉になんかならないぐらいあなたへの気持ちで溢れそう
言葉になんてしなくても十分伝わってきたつもりだった
だって、あの時のスープの温かさも、手や肌の温もりも
全部愛に満ち足りていた、手を繋ぐだけで、体に触れ合うだけでスープを口にするだけで
圭ちゃんが私のことをどれだけ大切に想ってくれているのか分かっていた

走っている途中、何度も何度もその言葉だけが頭の中に過ぎっていた
小さな子供がおどける声が聞こえた
ざわざわとした学生達も振り向きもせず横切った
立ち話をしている主婦を見た

フワッと、あの圭ちゃんが歌っていた曲を思い出す
私は首筋にかいた汗も拭わずにボソボソと口ずさみながら走る

足を止めた
並木道の下は、オレンジ色に染まって落ち葉がよく映えていた
眩しい、でも。

私は細目を開けて遠くを見る
トレンチコートと深く被った帽子、茶色い大きな手持ちの荷物カバン。寄り添う野良猫。
その人は夕日の鮮やか過ぎるオレンジの中に独り、黒く、映っていた

私に背を向けて遠く、遠くへと歩き出している
背中からはどこからとなく哀愁が広がっている

待ってよ、待って。どこに行くの?
圭ちゃんの影だけが道に大きく映って、悲しさを倍増させる

なんて言えばいいのか、分からない
「圭・・・ちゃん」ボソッと私は呟く もちろん、圭ちゃんに届くはずが無い。
「待っ・・・」やっと会えたのに、これでサヨナラなの?
ずっと待ってたのにこれで終わりなの?

圭ちゃんが行ってしまう、このままだともう一生会えないかもしれない

約束したじゃない、帰ってきたら結婚しようって。
約束やぶるの? 待って、待って、嫌だ。置いていかないで。

もう1人は嫌だ、待って。待って。
圭ちゃん、寂しいよ。待って。

何て言えば良いの?何ていえば答えてくれる?待ってくれる?
そんなの、分からない。でも、

「待って!!!」私は道端で大きな声を出して叫ぶ
もう今年で25だというのに、幼い子のように。

それでもあの人の足は変わらず、止まらない。

「待って!行かないで!!」
足のリズムは止まらない
私は涙が出てきた
なぜだろう?私、歩けない。圭ちゃんのところへ真っ先に走り出したいのに。
鉛のように重い。

「圭ちゃん!!!」私は叫んだ



↓目次

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】
【21】【22】【23】【24】【25】【26】【27】