スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説SUGINAMI MELODY>12

SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 12

野菜を切って、肉を切って、隠しあじを入れて、煮込む
詳しい作り方は秘密、私と圭ちゃんだけの秘密なの。
隠しあじも教えない、意外な意外なものなんです。

鍋に入っていて温まったように見えたスープを私はお玉をくぐらせて味見をする
・・・うん、こんなもんかな?と思って火を消して、スープをカップにとくとくと入れる
台所を出て、リビング、テレビがある部屋にお気に入りのバケットと一緒に持っていく

バケットは軽く焼いて、上にハチミツを乗せる、甘くて少し、ほろ苦い
スープを一口飲むと、さっきまで寒空の下で凍えていたカラダがほっと暖かくなる
あ、まただ。
また涙が出てくる、なんでだろう、分からないけど、カラダの中から何かが溢れそうになる
いつもとは違う感じの涙。

あぁ、そうか。私、嬉しいんだ。
あの旅人さんに話を聞いてもらって、慰めてもらって、話を聞けて、
私は嬉しいんだ。

彼が居なくなってからこんなに優しい気持ちになれたのは初めてだった
いつもは圭ちゃんが私を優しい気持ちにしてくれていたから、久しぶりの感覚だった
あんまり懐かしすぎて私は、また涙が出てきた

1人の部屋で飲むスープは寂しすぎていつも圭ちゃんを思い出していた、
その度に悲しみにくれて1人でめそめそ泣いていた
でも今は違う、圭ちゃんへの溢れる気持ちと、優しさと、人の温かさから私は涙を流している

今日のスープは気のせいかいつもよりしょっぱく、美味しかった

カーテンを開けて外を見ると、寒そうな風が吹いていた
木々が揺れ、葉が散っていた

「あの人は、大丈夫だろうか?」
「ちゃんとご飯を食べれただろうか?」
「今ごろ、寒くないだろうか?」
と私は旅人さんのことをぼーっと考えた
薄手のトレンチコートじゃ、これは寒いだろう。スープを分けてあげたいな、と私は思った

気が付いたら心よりも体が反応していた
小さな魔法瓶に私は1人分のスープを入れてコートを着て外に出てみた

アパートの階段を駆け足で降りて、私はさっきの並木道へ走った
並木道のベンチにはさっきのまま、あの人が座って、下を向きながら猫を撫でていた
周りには3〜4匹の野良猫が集まっていて、私が仲良くなった猫もそこに居た
まるで、猫たちは旅人さんに撫でてほしい、と言ってるように見えて私は滑稽に思えた

私は魔法瓶を手に抱えて一人で立って彼を見つめていた
帽子の下から少しだけ、目が見えた。
優しく野良猫を撫でる目を見て私はハッと思い「もしかして」と考えた



↓目次

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】【19】【20】
【21】【22】【23】【24】【25】【26】【27】