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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 20

11時半、まあこんなものでしょう。
駅のホームで武ニイを探す。

本名は伊籐武正、確か今年で27歳。
高校ではラグビーをしていてガッシリとしている。
その上の信兄ちゃんの本名は伊藤信弘28歳。
去年奥さんの陽子さんをもらって、今陽子さんのお腹には赤ちゃんがいるから、
子供は田舎で育てたいという2人の相談で長野に行くことになったそうだ。

みんな、私の周りの人が幸せに過ごしている。
それで私は満足だ、十分に嬉しい。

信兄ちゃん夫婦なんかもう子供の名前も決めたらしい
「男の子だったら大樹か陽輔。女の子だったら夏海ちゃんか風香ちゃん。
どうだ?いい名前だろ。夏生まれの予定だからな。」
信兄ちゃんが笑いながら言った、とんだ親バカだ―、と言って笑った

「おう、さなみ。」右手を大きく振り上げた武兄ちゃんが立っていた
「遅いよー、ランチ奢ってくれるんでしょうね。」と私も言う。

分かった分かった、とでも言ってあきれるようにして武ニイは地図を見せた
「ここ、このホテルに行きたいんだけどお前んちの近くだろ?」
指を指した先には私のアパートからバスで15分弱で着くホテルがあった

「分かった、連れてってあげる」私は自慢するかのように誇り高く道を進んだ

どうしても並木道を兄に見せたくってわざわざ遠回りをした

「ここ、ここ。凄いキレイでしょ。」
赤や黄色、橙の落ち葉がハラハラと舞っていた
兄は自販機で買った缶コーヒーを一口飲んで「こりゃすげえな、たいしたもんだ」と言った
兄が驚くのが私は嬉しくって嬉しくって、いろんな話をした

でも圭ちゃんのことも、旅人さんのことも言えなかった

道を歩いていると野良猫が居た、そいつはよく私に懐いている猫だったので
鳴きまねをして、猫を呼んでみた
すると猫は「ニャァ」と鳴いてこっちにくる
私は猫の汚れた頭を手で撫でて抱きしめる

「見て、かわいいでしょ。こいつ、すごい私に懐いてるんだから。」
私は兄に自慢をすると兄も、手を出して頭を撫で始めた
「可愛いなぁ、コイツ。黒いから名前はクロか?」と言う
「嫌だな、そんな名前。もっと素敵なのが良いな。」と言う
猫が腕からすり抜けて、下に降りた
「あっ、行っちゃった」私がそう言うと兄はニッコリ笑って
「あいつ、本当にお前に懐いてるのか?」とからかった
私は猫を目線で追いかけた
後ろをチラ見しながら猫はその人の場所へと走っていった

あ・・・・。
目線の先には、旅人さんがいつものベンチに座っていた
1人でぼうっと座っているところに、さっきの猫が行く
旅人さんは躊躇無く猫を懐に抱く

まるでそれは愛し合う恋人のように

その人は愛する人を守る、騎士のように大切に猫を抱きしめた

その時、旅人さんがこっちを見たような気がした



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