スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 9

ホームレスの男性は、何も語らずに、野良猫をずっと撫でていた
慣れたような、優しい手つきで

私は、その彼と猫を見て、微笑ましく思えてしょうがなかった
こんな優しい気持ちにさせるペアーは無いな、とか
デジカメで写真撮ったらすっごい綺麗だろうな、って思っていた

その人は優しさが体の内面から溢れていた
ああ、この人はきっと優しくって、素敵な人なんだろうな。と私は考えていた


風が冷たい
膝丈のスカートからはストッキングから風を感じる
「寒いですね、今日は。」男性が私に言った
「えっ・・・?あ、はい。本当に。」

「体を冷やしますよ、女性は特に危ないでしょう。大丈夫ですか?」
「はい、まだ、大丈夫です。そちらは?」
「私のほうは、大丈夫です。慣れてますから。」

慣れてる。
この人は、どこかよく分からないけれど他の街とかで、もっと寒い木枯らしを感じたりしたのだろう

「失礼ですが・・・最近この辺によくいらっしゃいますよね。
どうかなされたんですか?」
私は恐る恐る聞いてみる。
ホームレス・・・ってことはリストラとか?借金に追われてたり?それとも倒産?
テレビや雑誌に見た、知ってる限りの情報を頭の中で廻らせる

「ああ・・・、僕、旅をしてるんですよ。そんな立派なもんじゃ無いけど。」
男性は、口元を笑わせてそう言った
「旅・・・ですか。素敵ですね。いろんなところに行ったんでしょうね。」
私は、そうやって胸を痛めながら言った

「いや、そんな立派なところは行って無いですよ。
ただ、日本中を転々と。
立派なものは見てないけど、たくさんの優しい人に出会えました。」

たくさんの優しい人に出会えた。なんて素敵な言葉だろう。

「どこへ、行ったんですか?」
「そうですね、北は北海道、岩手、群馬、長野、滋賀に岡山。
九州だったら福岡や宮崎。四国は愛媛だけ。
好い所ばかりでしたよ、海が綺麗だったり、山を見たり、」
「良いですね、楽しそう。でも何で今はここに?」
彼は少し俯き、猫を撫でながら呟く

「会いたい人が居るんです。まだ僕のこと覚えてくれてるか分かりませんが。」
「恋人とか・・・ですか。」私は彼に共感して呟いた

冷たい風が、この並木道の下を潜り抜ける

こんなとき圭ちゃんだったら「寒いね」って言って私の手を取り、
一緒に並木道の下をくぐったり出来るのに。
右手の感覚が圭ちゃんを忘れてきてる
大きくって、あたたかい、優しい圭ちゃんの手・・・どこに行っちゃったんだろう。


右手が、心が圭ちゃんを欲しがっている



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