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SUGINAMI MELODY [作者:あつこ]

■ 10

なぜだか、切なく哀しくなってきた
こんな気持ち、ずっと前からしていたと言うのに何をいまさら
私が抱えていた想いを、この旅人は何でも知っているかのように思えて
泣く事を恥ずかしいとは、思わなかった

ひとつ、またひとつ、と溢れてくる涙を止めようともせず、流して
両手で抱え込む時には、もう手からはみ出そうなぐらいに涙を流していた

旅人は私を見て少しだけ驚いて、でも口元は優しく微笑みながら
左手では猫を撫でながら空いた右手で私の背中を優しくさすった

優しい手つきは圭ちゃんを思い出させて、また私の涙腺を弱めた

恋は、なんて辛いのだろう、苦しいのだろう
こんな想いをするぐらいなら圭ちゃんのことなんて忘れてしまいたい
全て無かったことにして、家も引越して、スープの味も忘れて、写真も捨てて
全てを捨てて、新しい恋をはじめる
こんな簡単そうなことが、なぜ私にはこんなにも難しいのだろう

こんなに辛い思いをしても
「恋なんてしなきゃ良かった」とか「圭ちゃんに出会わなければ良かった」なんて思えない
彼と出会えた奇跡に未だに感謝してしまう
あんなに素敵な人は居ない
あんなに愛せる人はもう居ない
愛して、愛されて私たちは幸せだった、

・・・だった?過去形?
分からない、私は今でも彼を愛している、泣きそうなくらいに
彼は今ごろ何をしているのだろう、私のこと、愛していてくれるだろうか。

「悲しいことがあったときは、思いっきり泣く方が良いですよ、
溜め込むとよけい辛いだけですから」
旅人はそう言って小さく笑う
この人は、私に何があったのか、何で泣いてるのかを聞かない
ああ、この人は本当に優しい人なんだ。

そう考えると心が優しい気持ちで溢れてきた
膝の上に乗っている猫が寝返りをうつ そして小さく鳴く 喉をならす
その人は手を休めることなく、あたたかく撫で続ける
猫は安心しきった顔で、またうつらうつら転寝を始める

「すいません、いきなりこんな」と、私は涙をブラウスの袖で軽く拭き取ってそう言う
「良いんですよ、これも何かのご縁です、」

旅人はこっちを向いて笑う
目は深く被った帽子のせいでよく見えない

陽が落ちてきた、夜になってしまう家に帰らなくちゃ、
・・・でも、なぜかもうちょっと、ここに座ってたい。この人と話してみたい。
そうぼうっと考えながら私は彼の口元だけをじっと見ていた



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