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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(5/7)

「タビビトって名前、本名じゃないでしょ?」
 宴が終わった後の哀愁はなんとも言えない。熱くなったものが急激に冷めてしまうような感じ。タビビトはそんなことには慣れている、はずだがやっぱり時々、寂しくなる時がある。
「あぁ、でも本名は教えない。」
 この時はルナから誘ってきた。タビビトはディーンにアリィとクレイを頼むと、ルナが泊まっている部屋を尋ねた、と言っても隣の部屋だったが・・・。ディーンはまたか、という表情でタビビトの後姿を見送っていた。
「いいえ、知っているわ。」
 ルナはベッドから立ち上がり窓辺にいるタビビトに近寄った。タビビトはルナを抱き寄せる。
「そうか・・・。」
 タビビトは微動だにしなかった。むしろ知っていたんだな、という表情だった。ルナは上目遣いでタビビトを見た。
「そう、知っているわ。あなたも私のことを知らなかったわけじゃないでしょ?」
「・・・あぁ。」
 タビビトは迷っていた。だが、真剣なルナの眼差しを見ると、嘘をつく気にはなれなかった。
「私達、アガド大陸にいる唯一のジャポ血を引くもの・・・。それも、二人だけ。」
「俺と君だな。」
 ルナはタビビトの右目を覆い隠している前髪を掻き揚げた。透き通った青色の瞳が現れた。ルナは驚く声を出す間もなく、口を口で塞がれた。押し付けるようにされたキスはルナにとって初めてだった。同時に身体がカッと熱くなる。
「俺はオッドアイだ。右は親父、左が母親だ。」
 タビビトはルナの腰に手を回し、首を持ち上げるようにして、強く抱きしめた。ぺったりと身体を寄せ合う姿が窓のガラスに映る。タビビトはそれを見ていた少年がいた、ような気がした。
「ごめんなさい。」
 ルナはやっとの思いでこの言葉が出た。タビビトは何も言わずにルナにベッドの上に横たわせ、自らルナの上に乗るとベッドに身を沈めた。ルナの目は見たものを惹きつける妖しい魅力は放っていなかった。彼女の目は初めてのことに不安を感じる純粋な少女の目をしていた。


↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】→ 【6】 → 【7】