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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(6/7)

「謝らなくてもいいさ。それも知っていたんだろ?」
 タビビトは前髪を掻き揚げ、耳に掛けた。再び青い右目が姿を現す。
「ええ・・・そうよ。本当だったとは・・・」
 ルナは青い瞳を見ずにはいられなかった。タビビトは低い声で喋り始めた。
「俺は別に両方とも黒い瞳にしたいわけじゃない。全部ひっくるめて、俺なんだからな。いくら親子らしくなくても一応、親父の分もとっておくつもりだ。たとえ、この目が気味悪がられようがな・・・。」
「お父様の・・・?」
 タビビトはルナの言葉を遮るようにして再びキスをした。その時、肌がスッと冷えるような冷たい風を感じる。
 やっぱり、見ていたか。だが、もうこれ以上は見ないんだな。タビビトはルナに気づかれないようフッと笑った。

 その様子を見ていたディーンがいた。全部見るつもりはなかったので、タビビトがルナの衣装に手をかけたあたりから姿を消した。
やっぱり、あいつは半分ジャポの血を引いていた。だが、親の話など一度も聞いたことがない。いや、初めから両親というものなど存在しないかのような振る舞いだった。そこまでして、消したかった過去。あの女に会って初めて見せた、一人ぼっちの子供が愛が欲しくて寂しがっているような、寂しさをいっぱい溜め込んだ瞳・・・。
「ディーン、どうしたの?」
背後からアリィの声が聞こえる。ディーンは振り返れなかった。
「あのね、隣の部屋から変な声が聞こえる。なんか唸る声。」
「はっ?!」
その言葉にディーンは勢いよく振り返った。あまりにも慌てている様子なのでアリィは、
「誰か苦しんでるの?」
と聞いた。ディーンはどう答えればいいか分からず、しばらく身体を浮かせたまま廊下を行き来した。その間、アリィは興味半分で、「うめき声」のする部屋の前まで行き、ドアをあけようとした時・・・、
「だっ、やめろ!」
ディーンは慌ててアリィの寝巻きの襟をつかんだ。アリィは大きく後ろへ倒れる、ディーンはしまった、と思いアリィが痛がらないように下敷きになった。
「ディーン、一体何があるの?」
アリィは不機嫌な表情で身体を起こした。ディーンも腰をさすりながら身体を起こした。
「そ、それは今は言えない。」
「けち!教えてくれたっていいじゃん。ってその前に眠れないよ。うるさいんだもん。」



↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】→ 【7】