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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第1話 アリィ・ローグマン(6/7)

  旅人は鍋の中の水を眺めていた。
  どこからか吹く冷たい風が旅人の頬をなでる。旅人は静かに目をつむり静かに言った。

「ディーン、遅いじゃないか」

  冷たい風は旅人の目の前に姿となって現れた。

「ちょっとな・・・・・・」

  ディーンは同じぐらいの少女を抱きかかえて、ぶっきらぼうな口調でいった。旅人は少女に目をやる。
  少女は六歳ぐらいで、二つに分けてくくられた金色の髪に、透き通った青い目をしていた。
  少女は怯えている表情だった。旅人はディーンを横目でちらりと見てから、正面を向いて少女に声をかけた。

「君、名前は?」

  ディーンは少女を降ろして、クレイの元へさっさと行ってしまった。少女は困ったような戸惑っているような表情で答えた。

「アリィ・・・・・・アリィ・ローグマン」

「アリィ・ローグマンか・・・・・・、君はアトラ人だろ」

  旅人はアリィの髪に触れながら聞いた。アリィは静かにうなずいた。アカートの国ではアトラ人とケルー人とガダネス人が暮らしていた。
  ずっと昔、アカートの国で暮らしていたのはアトラ人とガダネス人いう民族だった。
  アトラ人の特徴は、肌の色が白く、目が青く、髪が金色か茶色ということだ。
  アトラ人はだいたい透き通った青い目をしているので、ひとめで分かる場合が多い。いわゆる純血である。
  ガダネス人の特徴は、長命で生まれながら特殊能力を持っているものが多く、神として崇められている民族だ。
  彼らの特殊能力は四つに分かれていた。風を操る者、土を操る者、火を操る者、水を操る者・・・。
  しかも彼らは、昔から神として崇められていただけに、人間とは隔離された場所で生活していたので、
  同じ民族、同じ能力を持つもの同士が結婚し、子供を産んでいたので、血はだんだん濃くなり、
  彼らの肌の色は元々の色だった肌色ではなくなってしまった。
  ケルー人ははるばる昔、他国からアカートの国にやってきた移住族の子孫であり、ケルー人はこの世界で一番、多いと言われている。
  彼らはいわゆる、混血であり、純血でプライドの高いアトラ人から差別され、肩身狭い思いを長年し続けていた。
  だが、最近ではケルー人の人権を見直す運動が盛んになり、ケルー人のリーダーが生まれ、
  彼はいくつもの困難を乗り越えて国王の座を取ったため、アトラ人はしぶしぶケルー人を認めるようになったが、
  陰では「ケラ」と侮辱したような呼び方をしている。
  ディーンはガダネス人で、風を操る能力を持っている。
  ディーンの両親は元々、兄妹だったが、子孫を残すため、という長老の言葉で結婚し、ディーンを産んだ。
  ディーンはそれがどうしても納得いかないところがあった。なぜ、自分達は人間と認めてもらえないんだろうかと・・・。


↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】