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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第1話 アリィ・ローグマン(5/7)

「お前、馬鹿だな。自分から死ににいくなんて」

  少年は正面を向いたまま言った。

「私、死んだの?」

  少女は涙声で聞いた。

「いいや、死んでない。下を見ろ」

  少女は下を見下ろした。下には円状の処刑場があり、唖然とした表情で上を見上げている兵士がいた。
  少女は急に眩暈がして、少年に強くしがみついた。

「降ろしてー!!」

「高いところ苦手なのか?」

  少年は嫌味っぽく笑った。少女は目を強く閉じて、大きくうなずいた。

「分かった、安全なところへ連れて行ってやるから我慢しろ。でも、その前に・・・・・・」

  少年は下を見下ろし、手の平を空に向けて勢いよく地面にめがけてひるがえした。
  鋭い風の音と共に兵士の鎧は真っ二つに割れた。兵士は逃げようとしたが、腰を抜かして、立つことすらできず、混乱している様子だった。

「本当は八つ裂きにしてやりたいけど、お前、そんなの見るの嫌だろ?」

  少年は少女に聞いた。少女は唇を噛み締めて強くうなずいた。
  ぽろぽろと少女の目から滴り落ちた涙は少年の腕をつたった。少年は沈みかけの太陽をじっと見つめて、

「安心しろ、行くぞ」

  少年は風に乗って、町のはずれに向かった。

  町のはずれには、真っ赤な夕焼けに包まれた一人の旅人がいた。
  旅人はテントを張り、火をおこし、夕食の準備を包めていた。
  準備をしている最中、クレイは鍋になったり、包丁になったりと色々な姿に変え、旅人の手伝いをしていた。

「ディーン、遅いな。」

  と旅人。鍋に姿を変えたクレイは沸騰していない水をブクブクさせながら言った。

「また、崇拝されておるんじゃないかの・・・・・・」

「そうだな。まあ隙を見て戻ってくるだろ」



↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】