スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説唄う旅人TOP>唄う旅人_14

唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(1/7)

「俺は村に戻る。そして、さらに強くなってから再びお前を倒しに行く。」
 広い広いどこまでも続く草原の中、ノラは胸を張って言った。タビビトは荷造りに精を出して、ノラの話を全く聞いていない様子だった。
「・・・聞けよ!!」
 ノラは地団駄を踏んだ。タビビトはとりあえず、というような感じで返事をした。
「はいはい、いつかは俺も年を取って弱くなるんだから、心配はいらないよ。」
「馬鹿にしやがって。」
 ノラは吐き捨てるようにして言うと、肌が冷えるような冷たい風と共に姿を消した。その感触はアルコールを塗った時、塗られた部分がスッとするような感じだ。
 アリィはこの冷たい風がどうも心地よくなかった。そこで、アリィは思い切ってディーンに近寄って尋ねてみた。
「あの冷たい風、なんか変な感じがする。普通の風じゃないよね?」
「あぁ、ガダネス人は独特の風で移動するからな。特に力が強い奴の風は神風と呼ばれている。聞いたことあるだろ?」
 ディーンの声は少し甲高く、頬に少し赤みが差していた。アリィはそんなディーンに首を傾げたが、この日のディーンはいつもと違ってそっぽ向かず、珍しく愛想がいいので、気にしないことにした。
「うん。私、感じたことあるかも。力強くて何かを運んでいるような感じで・・・。」
 アリィは大きく身振りをして言った。ディーンが少し笑ったような気がした。それは、アリィの身振りがおかしかったのかどうか、アリィには分からなかった。
「そうか、俺の風はまだ冷たいらしいな・・・。」
「だって、ディーンまだ子供でしょ?」
 その言葉にディーンの口元がひきつった。
「あ、俺・・・。」
「ディーンは俺より長生きしている。おそらく・・・六十年ぐらいじゃないの?」
 タビビトはにやりと笑ってディーンに尋ねた。ディーンは気まずそうにうなずいた。
「あっ、そうか、純粋のガダネス人だったんだね。」
 アリィはいけない、といった表情で舌を出した。
「十年に一歳、歳をとるようなもんだ。」
 ディーンはややふてくされた表情だった。それも、頬を赤くしたまま。その横で、アリィは両手を合わせてディーンに謝っていた。


↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】