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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(2/7)

 アカートの国の国境を越えたところに、大きな川に囲まれたフノラという国がある。そこに住んでいる人々は陽気で、歌と踊りを大々的に楽しんでいた。歌と踊りを職業として、あちこちを放浪している女性がいた。彼女の名前はルナ・クエール。この国、一番の歌と踊りのセンスを持っている。黒くてウェーブのかかった長い髪、見たものを惹きつける黒い瞳、黒くて健康的な肌。これが彼女の特徴だ。
 彼女の妖美な歌声と官能的な踊りに虜になる男たちが後を絶たない。彼女は今日も何かを思い、甘い歌声で男性を魅虜し続けているのである。

「ここからフノラだ!」
タビビトは明るい声で叫んだ。
タビビトたちは、長い長い草原を越え、石ころばかり転がっている道を通り、川沿いを歩き、そこで野宿をし、再び川沿いを歩いて、ボート漕ぎに出会い、ボートに乗せてもらい、広い川の向こうに見えるフノラに着いた。
「そうだ、旅人よ。ルナ・クエールの歌を一回聴いてみなさいな。あれは聴く価値があるぞ。」
ボート漕ぎはタビビトから銅貨を受け取るなり、タビビトの耳元で囁いた。ディーンとアリィとクレイはそれを怪しむように見ていた。タビビトはあぁ、と短く答えると踵を返し、小さな町の入り口に向かって歩き始めた。ディーンとアリィとクレイは慌ててタビビトの後をついていった。
町の入り口に立てられた看板を見たタビビトは光が灯ったように顔を輝かせた。看板には油ののった絵の具で『旅人の方、大歓迎!歌と踊りの町【ダズソン】へようこそ!』と書かれていた。それを見たアリィも顔を輝かせた。
「タビビトさんの歌声が聞ける。」
アリィは独り言のように呟いた、それをしっかりと聞いていたディーンはアリィの横で、
「・・・俺は何回も聞いた。」
とだるそうに囁いた。するとアリィは羨ましそうな表情で
「いいな。」
「・・・たしかに何回聴いてもいいよな。」
ディーンは素直に言うのが恥ずかしく、慣れていないので、元の肌の色がわからないくらい頬を真っ赤にして呟いた。
「そうじゃのう。」
今度はそれをしっかりと聞いていたクレイが埴輪に姿を変えて喋った。
木で作られたアーチの入り口をくぐると、町の真ん中にあるレンガ造りの噴水が目に入った。この町は色とりどりで、地面は芝生で緑、家はレンガ造りになっており、赤色、白色、黄色・・・中には三色混ざった家もあった。
「ここの町って、レンガだらけだね。」
アリィは三階建ての家を目を丸くして眺めていた。白色、赤色、黄色が混ざった家はお洒落に見えた。
「すごいのぅ、一体どんな技術を使っているのじゃろうか・・・。」
クレイはレンガをぺたぺたと触り、何を思ったのか、黄色のレンガに姿を変えた。
「ここは、科学派の町だな。」
タビビトは黄色のレンガになっているクレイを持ち上げて、もて遊びながら、町全体を見渡した。
「中に塗料を練り込んでいるな・・・。」
とディーン。



↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】