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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(4/7)

 彼女も歌い出した。タビビトの歌声に乗るようにして。アリィは彼女に惹きつけられていた。妖しいけど、甘くて、ドキドキする。そんな感じだった。
 彼女はタビビトに近寄った。タビビトは少し笑った。彼女も少し笑った。タビビトはそれが当たり前かのような表情で彼女を抱き寄せた。彼女はタビビトの首筋に触れながら甘い歌声を出した。それを見ていたアリィは恥ずかしくて頬が熱くなった。ディーンはそんなアリィを横目で見て、口元に笑みを浮かべた。クレイはというと、皿に姿を変えてボーっとしていた。
「あなた、あの歌、知っている?」
 彼女は耳元で囁いた。タビビトは歌いながら短くうなずいた。
 歌が終わった。客も主人もウエイターも皆、歌声に魅虜されて、トロンと、とろけたような目で二人を見つめていた。
「私の名前はルナ・クエール。」
 ルナはタビビトの耳元で囁いた。
「俺はタビビト。」
 ルナは踵で床を叩く、こん、と軽快な音がなる。タビビトはルナの腰に手を回す。そして、クレイに視線を向け、口だけで「あれだ。」と早口で言った。クレイは皿からラッパとトランペットとバイオリンとドラムを合体させたような楽器に姿を変え、アップテンポのリズムを奏でる。クレイの姿にどよめく客たち、ルナも呆気にとられていたが、タビビトがルナの頬にキスをし、さらに驚くルナを強引に誘うようにさらに、身体をくっくけ、短く言った。
「さあ、歌おう。」
 タビビトはルナをリードするようにして、踊り始めた。


↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】