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唄う旅人  [作者:水月侑子]

■第3話 ルナ・クエール(7/7)

 部屋の中から漏れる「うめき声」がさらに大きくなる。ディーンの焦りはますます激しくなる。だが、「うめき声」をよく聞いてみた。う〜う〜と低くうなる声、そのかわり、あの女の声は聞こえない。あれは・・・本当にうめき声だ!!
「アリィ、部屋を開けるぞ!!」
 ディーンはそう言うと、風を巻き起こし手のひらで一つの塊にすると、それをドアにぶつけた。ドアが勢いよく開く。二人の目に入ったのは・・・。
「お、お前は誰だ?!」
 とディーン。
 そこには知らない赤毛の男が縛られていた。ディーンは男の元へ駆け寄ると、男の口を塞いでいる紐をほどいた。男は目を大きく見開き、顎をがくがくさせ、
「ゆっ許してください。許してください。」
 と何回も繰り返していた。男の目には涙が浮かんでいた。それを見たディーンは情けない奴、と軽蔑した。
「何があったか言え。」
 ディーンは宙に浮かび、仁王立ちで男を見下ろした。赤毛の男は「はい、はい、はい。」と答え、説明を始めた。
「わ、わたしゃのボスはルナ・クエールって女をさらってこいと命令されて、仲間で行って、部屋にずっと潜んでいたんでぇ。ルナという女をさらいましたが、わたしゃは縛られてこの通りでぇ・・・。」
 部屋に潜んでいた・・・?あの時、人の気配は全く感じなかったはずなのに。ディーンは疑問に思いながら次の質問に入った。
「タビビトはなぜ、お前だけ?」
「そっ、それは、あの男に不意打ちを食らわせたからでぇ。その間にルナ・クエールをさらったんでぇ。あの男が体勢を取り直したとき、わたしゃに向かって何か重いものを投げてきたんでぇ。わたしゃ、部屋を出るのが一番最後だったからでぇ。あの男、なかなか強いでぇ。」
 ディーンは男の話を聞いている間、必死で頭をめぐらせていた。勘の鋭い俺やタビビトでさえも気付けないほど気配を消せる人間、語尾につく独特の言葉、たしかフノラには武術や、人間の体内を流れる『気』を操るのに優れている少数民族がいたはずだ。
「この独特の喋り方・・・お前まさか、ファ族の人間なのか?」
「そ、そうでぇ。よその国の人なのによく御存事でぇ。」
 赤毛の男は声を裏返っていた。そう、ファ族はフノラに住んでいる人にもあまり知られていない。彼らは普段、山奥の洞窟で獣を狩って生活しているからだ。
「それはどうでもいい。お前も来てもらうぞ。」
 ディーンはふぅ、と溜息をつくと、縄を解いた。自由に動けるようになった男は手首をひらひらとさせた。
「あっ、そうだ。逃げようとするなよ。風の刃でお前の足を無くしてやるぞ。」
 ディーンは風を巻き起こして赤毛の男を脅した。赤毛の男は目を大きくして首を大きく横に振った。
 この光景を全く理解していないアリィがいた。アリィはドアにへばりつくようにして立っていた。ディーンはアリィに目を向ける。アリィはきょとんとした表情だった。
「アリィ、一人で寝れるか?」
 アリィは首を横に振った。
「・・・寝不足になるけどいいか?」
 今度は首を縦に振った。
「じゃあ、今からタビビトを助けに行くぞ!」
 ディーンの言葉にアリィは、
「えっ、え〜?!」
 と困惑するばかりだった。


↓目次

第1話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第2話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】
第3話 【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】