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スパイダー2 [作者:あつこ]

■22

今井さんの嗚咽が聞こえる
僕は振り向いてまた、今井さんの肩に手を置き見つめて呟く
「泣かないで、今井さん。・・・好きだよ。」

僕が思わず口にする
そして、少し慌てて一つだけ深呼吸をして僕は彼女に尋ねる

「ねぇ、Je Te Veuxって・・・どういう意味?」

今井さんは目をゆっくり開けて、また閉じて、
僕の腰に手を回して顔を僕の胸に、肩に寄せ付けて
コッソリと魔法のような言葉を放つ

「あなたが好き・・・高木君。」

今井さんが目線を僕に向ける
泣きはらした、赤い目。ウサギみたい、とかこっそり思って僕は薄く笑う

「知ってるよ。・・・ありがとう。」

僕の笑いよりも、大人な艶やかな薄紅色、いや、すみれのような?
謎めいた、怪しい微笑みを彼女は浮かべる

僕も肩じゃなく、手を今井さんの腰にまわす
けして、大人の男女がするような、色っぽい蜜のような出来事じゃぁなく
中学生同士と恋愛、の一つとして
僕はありったけの力で彼女を抱きしめる
こっそり、目を開けてみる
今井さんの髪の毛が近い、うなじも。
「かわいいな」って、やっぱり思ってまた、強く抱きしめる
教室が狭く感じる
後ろの肖像画がよく、見える

『エリック=サティ 1866〜1925』
彼の肖像画がよく見える。
僕だけの特等席のように。

サティが、一瞬僕に微笑んだような気がした
ぼくも「ありがとね」とサティにお礼を一つ言う。

「ねぇ、高木君。」
「なぁに?」
「ピアノ・・・弾きたくなっちゃった。弾いても良い?」
「ダメ・・・。もうちょっと、このままが良い。」
「フフッ、いじわる。」
「ウソだよ、弾いていいよ。」

そう僕が言うと彼女は手を放してピアノへ駆け寄る
「何、弾いて欲しい?簡単なのなら弾けるよ。」

「簡単なのって・・・どんなの?」
「えぇ・・・・と、『エリーゼのために』とか、『花のワルツ』とか『トルコ行進曲』とか・・・」
彼女は僕が知らないような曲ばかり、あげる
「良いよ、そんなのは。」
「じゃぁ、何弾こうか?」
「そうだなぁ・・・じゃぁ「Je Te Veux」で。」
耳元で僕がそっと囁く
彼女は右手でオッケー、とサインを作って、少しだけ笑う

そして、音楽室中に鳴り響く、彼女の、サティの音楽

彼女の微笑みと、かすかな歌い声

ゆっくりと紡いで、織りあっていく小さな恋

けして狂うことの無い、45分のワルツのリズム


誰も知らない、永遠へと続く2人の音楽が、
今日も第二音楽室でひっそりと呼吸をしている

 


↓目次

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■ あとがき

書いている途中、いろいろとハプニングがあったりして大変でした。
でも、自分の中で、一つの区切りとして成長した作品になったと
思います。
いろんな人の意見を聞いてみたいです。
ご意見があったら、ぜひ言ってくださいね☆≫