スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説スパイダー2TOP>スパイダー2_21

スパイダー2 [作者:あつこ]

■21

「・・・・・高木、君・・・?」
弱々しいその声に僕は一つだけうなずいた

音楽室の扉を開けたまま、彼女は上履きも履かずに廊下に立ち尽くすようにして
ゆっくりと、僕に質問してきた

「ずっと、ずっとそうやって聞いてたの?」
「・・・うん」

ストーカーっぽく聞こえるかもしれないけれど、会いたかったんだ

この教室で、軽やかな羽根のようにピアノを弾く君に。

話してみたかったんだ、君に。ずっと ずっと 永い間
この扉を開けるまで、どれだけ勇気を振り絞ったか。
今井さんは、知らないだろ?

「一人で、休み時間だって言うのに、みんなと遊んだりしないで・・?」
「・・・うん」

「私とここで会う前も、ずっと・・・そうやって?」

今井さんの声が震えた
僕は涙を急いでシャツで拭いて今井さんの顔を見上げると
今井さんの目から、宝石のように綺麗な涙が溢れ出していた

僕は、立ち上がって今井さんを見つめて肩に手を置いた

「泣かないで、こんなところで」
僕がいくらそう言っても今井さんは呆然と立ち尽くしながら
涙を流した

「・・・一人で、ずっと・・・?」

「・・・うん。
君の、今井さんのピアノを聞いていたんだ。」

「・・・私の?私のピアノを?」

「そうだよ、今井さん。・・・泣かないで」

泣くことを止めない今井さんの手を引っ張り隠すようにして
音楽室の中に入れた
ここでなら、思いきり泣けると思って。
今井さんの泣き顔を、他の人に見られるのは嫌だから。
二つの動機と小さな欲望を胸に、
僕は今井さんを落ち着かせるために、ピアノの椅子へ座らせた

こんな時、大人の男だったら空でも見ながら
煙草でも吸って、時間を潰すんだろうなぁ。とか
優しい言葉とか、言って今井さんの心を奪って逃げちゃうんだろうな、なんて
思いながら、僕は今井さんに背を向けて
煙草でも、吸うフリをしながら窓際に立ち、空を見上げた


↓目次

【1】 → 【2】 → 【3】 → 【4】 → 【5】 → 【6】 → 【7】 → 【8】 → 【9】 → 【10】 → 【11】 → 【12】 → 【13】 → 【14】 →
【15】 → 【16】 → 【17】  → 【18】  → 【19】  → 【20】  → 【21】  → 【22】