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スパイダー2 [作者:あつこ]

■15

一瞬、沈黙が出来た。
僕は何も言えなかった。
彼女への気持ちも、≪心境の変化≫の理由も。
彼女の気持ちも、聞けなかった。

「今井さんは。」
そう言いかけたとたん、音楽室の扉が開いた
用務員のおばさんが、扉を開けて僕らに言い放った
「まだ、帰ってないの?早く帰りなさい。もう下校時間過ぎているわよ。」
おばさんの迫力に驚かされた僕らは、知らぬ間に立ち上がって
「はい!!」とだけ返事してしまった。
「気をつけて帰るのよ〜」
おばさんは、それだけ言ってまた扉を閉めた。
あまりの出来事に、僕らは顔を見合わせて小さく笑った。
「あぁ、おもしろかった。じゃぁ、帰ろっか。」
今井さんはそう僕に向けていった
「高木君、家どっちの方向?何丁目?」
「えっと、3丁目のほう、ほら、大きい桜の樹がある公園、知ってる?あのへん」
「あっ、じゃぁ結構近いね。ウチは3丁目の歯医者さんの近くなの。分かる?」
「あぁ、分かる分かる。」
そんなこと話ながら、音楽室を一緒に出た。
普段なら、音楽室でしか、話せないけれど今は違う。
音楽室を出ても、一緒に居られることに、僕は喜びを感じていた
昇降口を出ると、雨上がりの湿った空気が僕らを包んで
水の匂いがまだ、あたり一面にたちこめていた

家が近いからか、僕らは一緒に話しながら帰った
話というのは、やっぱりくだらない事で、
昨日のテレビのこと、クラスであった面白いこと。最近買ったCDのこと。
話す内容は尽きなかった。
彼女の側にいて、笑いながら話せる事に僕は幸せを感じた。

雨上がりの澄んだ空
今井さんの笑い声
空を飛んでいる、鳥に
川に居る名も知らぬ魚。
公園で遊ぶ小さな子供たちに、水たまり。
全てが、愛しかった
恋の、苦しみも喜びもすべて、浄化されていった

このまま、時が止まっても良いような気がした


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