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スパイダー2 [作者:あつこ]

■11

私を好き?この男の子が私を好きだって言ってくれる
口をもごもごさせて、言い慣れない優しい言葉を私にかける
人に愛されるってこういうこと?
大野君も、慣れてないけど、私もやっぱ慣れないんだよ
大野君が必死に言葉を探して私に気持ちを伝えてくれるのを見て
私は彼の気持ちに答えなければいけないような気がした
彼が私を好きなように、私も彼を好きになりたかった
だから、私は彼を好きになるために、大野君の気持ちを受け入れた

彼は、いつも必死で私にありったけの優しさを振りまいてくれた
私は、そんな彼を好きになりたかった
でもダメだった
彼は優しすぎた、私のためにいろいろ尽くしてくれて
身を削ってでも、優しくしてくれて
まるで私のために、生きているかの様だった
そんな彼を見るのはとても辛くって
ボロボロになってでも、必死に笑う彼を、もう見たくなかった

私は、毎日45分間のあのピアノの時間がとても大切で、
一日のなによりも大事な時間に
知らぬ間にピアノを置いて彼と過ごすようになっていた
彼は私と過ごすこの45分がとても大切で、大好きだと私に言った。

ある日、私は第二音楽室を覗いて見ると、散らばった椅子に
薄汚れたいつものグランドピアノ
散らかった教室、ありのままの風景が私の中に入っていって、
私の心を一瞬にして奪っていった
久しぶりに教室に入って、ピアノに触れるとなんだか
最近のモヤモヤした気持ちがフワッと浄化されていって、
優しい気持ちになれる気がした

『ゴメンね。』私はピアノにそう言うと
涙が気づかない内に溢れてきていた
「ごめんね、ごめんね、ごめんね・・・」
泣いて、泣いて、私は泣き崩れてピアノに謝った
新学期、まだクラスに馴染めてないときにこのピアノだけは私を
救ってくれた、守ってくれた。
私は、そんなピアノを忘れて、彼と過ごしていたんだ
しかも、私は彼に何もしてあげられない
きっと彼は私が欲しがれば、血や肉、骨までもくれるだろう
そんなの「幸せ」と言えない。
私は彼を幸せにしてあげられない、
こんなの、ダメだ。。。
私はそう思って彼に別れを告げて、次の日から
また、この音楽室に来てあの
≪ジムノぺティ≫を弾いた。
この曲は、きっと大野君に捧げよう
優しい、優しい。誰よりも優しい大野君にこの曲を贈ろう
私に出来るのは、それだけ。


「この曲を弾いてたら、今度は高木君に出会った
運命っておもしろいよね。」
今井さんはそう言ったら、満面の笑みで僕に笑いかけた
今日の45分が、終わる。
今井さんの、何よりも大切な45分が過ぎていく
僕は、彼女になにをしてあげられるだろう?
僕は、彼女の力になってあげられるのだろうか?

45分の時間が、少しずつ過ぎていくのを、肌で感じた。



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