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スパイダー2 [作者:あつこ]

■14

重い扉を、ムリヤリ開けてピアノを弾いてる彼女の顔を見つめた
「なんで、この曲を弾いてるの?≪ジムノぺティ≫は?」
息を切らして僕がそう言うと彼女は少し考えて
「心境の、変化ってやつかな?」と笑って言った。
心境・・・・・?遼への、気持ち?
思わず、言いそうになったけど止めた。
言ってしまったら、今度こそ本当に終わってしまう
ここで2人きりの45分を過ごせなくなってしまう、
そんなのは嫌だから、僕は何も言わなかった。

そして彼女はまた、ピアノを弾きだした。
最初のころ、悲しげに弾いていたジムノぺティとは違って、
穏やかで、涼しげで、楽しげに、笑いながら。
Je Te Veux を、弾いていた。
≪あなたが、好き≫
≪あなたが欲しい≫
こんな意味を持つ曲を、彼女は遼へ向けて弾いているのだろうか?
一曲弾き終わって、一呼吸ついた彼女は横目で僕をチラリと見た
「てっきり、もう帰ったんだと思っていた。」
「え?なんで?」
僕が言った言葉に彼女は、ちょっとだけ笑って
「外から、遼くんの声が聞こえたから、一緒に帰ったんだと思ってた」
「ちょっと、調べたい事あったから、先に帰ってもらったんだ。」
「・・・そう。」
彼女の、
彼女の口から出る「遼くん」という言葉に少し、切なくなった
付き合ってた時も、遼のことをそう呼んでたのだろうか?
分からないけど、なぜだか切なくなった。

今日は職員会議で、部活は全面中止。
おそらく、この学校に居る生徒は、僕ら2人だけであろう。
でも、僕は今日も彼女に名にも出来ないまま終わるんだろうな。
可愛いなぁ。触れたいな。
そんなこと考えていたら、唐突に彼女が聞いてきた
「高木君、好きな人いないの?」
フフ、とした目で彼女は僕に聞いた
僕はあまりにもいきなりの質問に驚いて、
目を丸くしてしまった。
「居るんだ。バレバレよ。」
挑発的な目で、昼休みにした「なんでも知ってるのよ」とでも言うような目で。
彼女は唇の両端を上げて笑った
「いや、えっ、その。あの・・・」
しどろもどろになる僕に言い放った
「ハハハッ。分かりやすーい。
そんなんじゃぁ、誰にだって分かるよ。」
「いや、だから、その、・・・」
僕の好きな人は、あなたです。
そう言えたら、どれだけ良いんだろう。
言えるものなら、さっさと言ってしまって、終わらせてしまいたい。
「そっか、好きな人、居るんだ。
そっかぁ・・・。」
彼女の小さな呟きが聞こえた。


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