スパイダー2 [作者:あつこ]
■20
勇気を出して、そっと扉を開けてみる
誰にも、今井さんにバレナイように
ピアノを弾いている人はやっぱり今井さんだった
でも、弾いている表情はいつもみたいにゆったりとしていなかった
どこか、焦っていて 少し汗ばんだ腕が必死にピアノを弾いているように見えた
曲が、止まった
まだ途中なのに。
悲しげなため息を一つだけ彼女はついて
キッとした表情になり、またピアノを弾き始めた
僕は扉をゆっくりと閉めて廊下の壁に座りこんでしまった
もどかしさや、やるせなさが入り混じって 立つ気力さえ無かった
イヤでも耳に入る音楽
≪エリック・サティ≫・・・・
優しい音楽、サティのワルツのリズム
今井さんの微笑み 昼休みの音楽室
すべてが揃っていた これだけで生きていける様な気がした
ピアノの音色は少しだけ響いて曲がまた、止まった
彼女のとる行動の一つ一つが僕の心には重いおもしのように降りかかる
彼女の小さな微笑は僕の心を軽くする
彼女の小さなため息は僕の心を闇へと飛ばす
浮かんで、沈んで、また浮かんで
僕の心はゆっくりと浮き沈みをする
絶えられないほどに
彼女と出会ってから僕の涙腺はゆるくなりっぱなしで
枯れることもなく、僕の目から溢れてくる
声は出さぬよう、今井さんにばれないように
小さく、服の裾で涙を拭いながらしゃがみながら こっそり、泣いた
休み時間の残りは、あと24分
もう21分過ぎたんだ
そう、気づいた時、僕の隣であの重い扉を開ける音が聞こえた
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