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スパイダー2 [作者:あつこ]

■12

ゆっくりと流れてく時の中で、
君の大切な、特別に輝いてる45分の昼休み
彼女の《ジムノぺティ》の音色は僕の親友の元へ。
僕はこっそりと君の音色を盗み聞きするだけの、スパイダー。
いや、スパイダーよりタチが悪い
彼女の泣きたい過去を僕が掘り当ててしまった。
こんなの、僕の予定に無かった。
本当なら、彼女の心をわしづかみにでもして、
奪い去ってやる予定だったのに。

「ねぇ・・・聞いてる?」
今井さんが僕の顔を覗き込んでそう言った。
『運命っておもしろいよね。』
さっきから今井さんの言葉が僕の頭にこびりつてしまっていて
僕は彼女の言葉に反応をするのを忘れていた。
ハッと気づいた僕は思わず「うん」とだけ言った。

休み時間が終わるのは、1時45分
今は、1時38分。
彼女の今日の「生きる意味」はあと7分で幕を閉じる
「今井さんにとっては、」
「え?」
「今井さんにとっての≪生きる意味≫ってのは、
そのピアノで毎日遼のためにジムノぺティを弾くことなの?」
「えっ・・・?そんなこと。」

そんなこと、その続きが聞こえなかった。
戸惑いを隠しきれずに下を向いている今井さんを僕は、
やっぱり可愛いって思ってしまった。

「そんなこと、無いよ。」
彼女はいつの間にか顔を上げて、僕の目をまっすぐと見ていた
今井さんは、僕が思ってるよりも芯が強いらしく、
彼女の微笑みからはどこからか、小さな自信さえ感じた。
「じゃぁ、なんで今井さんは、」
「私は!」
僕の言葉を遮って今井さんは話し始めた

「私は、遼くんのために毎日ここでピアノを弾いてるんじゃないの。
私がここでピアノを弾いてるのは誰の為でもなく、私のためなの。
私にとっての≪生きる意味≫ってのは、
遼くんのために毎日、ジムノぺティを弾くんじゃなくって、
私を今日まで生かしてくれたこの、ピアノに。
ピアノのために毎日私は弾いてるの。」

正直・・・彼女の口からこんな言葉が出てくるなんて思っても無かった。
彼女のピアノに対する熱い想いと、熱意に僕はおされてしまった。
ためらいも無く、瞬時に自分の「生きる意味」を言えた彼女を
僕は、心から『カッコいい』って、思った。

1時43分、あと2分で休み時間が終わる。


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