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スパイダー2 [作者:あつこ]

■8

あの泣き顔が頭から離れないまま、僕は昼休みをむかえた
今日も第二音楽室へ走る、階段を上って降りての繰り返し
息をきらして、着いた音楽室にはやっぱりピアノの音がした
・・・・あれ?この曲・・・いつもと違う
≪エリック・サティのジムノぺティ≫じゃ無い。他の曲だ
僕はおそるおそる扉を開けると、朝とは違う
凛々しくって、悲しげな顔でピアノを弾く今井さんがそこに居た

ピアノの音が止んで、今井さんが薄く笑いながらこっちを向いた
「今日も、来たんだ。」今井さんが椅子を少し直してそう言うと
さっき弾いていたのとは、違う・・・
いつもの≪エリック・サティのジムノぺティ≫を弾き始めた
一曲弾き終わったところで、僕は思わず聞いてしまった
「さっき・・・いつもと違う曲弾いてたよね?」
そう言うと今井さんは、驚きを隠したようにして
「ばれちゃた?この曲はね・・・。」
そう言って、口をつぐんだ
「何ていう曲なの?」
「≪エリック・サティのJe Te Veux≫って言うの。。。」
今井さんはそう言ったとたんに顔を赤らめて、
恥ずかしそうにしていた
Je Te Veux ・・・この名前には、どんな意味があるんだろう?
ジュ・トゥ・ヴ、何語かな?フランス、イタリア、スペイン・・・?
明るいんだけれど、ワルツっぽくって
踊りだしたくなるリズム
こんなステキな曲を、なんでこんな悲しげに弾いてるんだろう?

「ねぇ、」
先に話しかけて来たのは、やっぱり僕じゃなくって今井さんだった
「今日の朝、見たでしょ?」
・・・・ばれてた!?と戸惑いを隠せないでいたら
今井さんはフフンと笑って「何でも知ってるのよ」みたいな感じで
僕を見ていた。
「・・・正直に言って良いのよ、怒らないから」
ニコッと唇の両端をあげて笑う今井さんを
こんな時でも、やっぱりかわいいと思いながら見とれてしまった
「・・・。ゴメン。」
僕がそう小さく謝ると「やっぱり」とおどけたように言いながら
窓の傍に行って今井さんは外を眺めはじめた
「理由、聞かないの?」
「ヘ!?」
今井さんは窓を背に向けてこっちを向いて言った
「だから、泣いてた理由。」
朝の雨はもうあがっていて、外はキレイな青に染まっていて
そんな青を背景に今井さんは僕に言った
「聞いて、良いの?」
「知りたいんなら、聞けば?」
今井さんは、そう言うとすぐに
また窓側を向いて空を見ていた



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