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胸に咲いた黄色い花 [作者:えり] ■13
玄関からいつものように、声が聞こえてきた。 反射的に体が玄関に続く扉のほうに向く。 が、犬のように飛び出したいのをぐっとこらえ、ひたすら鍋の中身をかき混ぜ続けた。
すると、急ぎ足のスリッパの音が廊下に響いた。 次の瞬間、いきおいよく扉が開いて、亜紀が部屋に入ってきた。
「清?」
亜紀は、少しあせった顔つきだった。 その表情に驚いて、思わず火を止め、台所から出てそばに近づく。
「何?」
彼女は俺の姿を見ると、表情を緩めた。 どうしたっていうんだろう。
「なんでそんなあせってんの?」 そう聞くと、亜紀は少し顔をうつむけた。
「別に、あせってないけど・・・初めてじゃない」
よくわからない、といった風に眉をしかめると、亜紀は真剣な目でこちらを見つめる。 凛とした、吸い込まれそうな目。一瞬。金縛りにあったように体が固まった。
「清が、顔をみせなかったから、どこか行ってるかと思ったの。もしかしたら・・・」
そこまで言って亜紀は口をつぐんだ。 そして、その続きは決して言わないように、硬く唇を閉ざす。
「もしかしたら?」
全く先が読めない展開に、俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになる。
「・・・・・・」 亜紀は決して口を開こうとしない。 少しの間、沈黙が流れた。
「・・・あー、ああ、ごめん。ちょっと手がはなせなくてさあ。それより、みてくんない?あれ」
なんとかこの気まずさをかきけそうと、台所を指差し笑顔を見せる。
彼女は不思議そうに、台所をのぞく。 そして、その切れ長の大きな目をまるくする。
「何、これ。清が作ったの?」
台所には、おいしそうなカレーがほかほかと湯気を立てていた。
「そう。すごくない?俺、料理なんかしたの林間学校以来なんだけど。ていうか、入ってきた瞬間匂いできづかなかった?」
「そういえば・・・なんかいい匂いが」
亜紀のほめ言葉ととれる台詞をきいて、自慢げに口の端を上げる。
「だっろ?いい匂いだろ」
しかし、亜紀はまだ驚いた顔で立ち尽くしていた。
「しんじらんない・・・清が?あの何にもしない清が?本当においしいの?」
「うわ、その言い方ひど。・・・たぶんだいじょうぶだってー」
そういって、台所に入り、とりあえず食べてみよう、とカレーをもう一度火にかける。 そして、いい具合にあたたまると、お皿の中にご飯を盛り付け、ルーをトロトロと上から流しこんだ。
「すっげーいい感じかも」
そう、満足げに一人でつぶやく。
「はい」
すでにテーブルに用意されたお茶とスプーンの間に、カレーが入ったお皿をうまい具合においた。 亜紀は俺の手際をながめながら、呆然と立ち尽くしている。
「はやくすわって」
まちきれない、とばかりに強引に彼女をいすに座らせる。 亜紀はやっとうごきだし、かばんを隣のいすに下ろした。
「いただきます」 そういった俺に続くように、 彼女はきれいな指をキチンとそろえて、浅く、お辞儀した。
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