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胸に咲いた黄色い花  [作者:えり]

■7

射抜くような尚の言葉と視線に、思わず顔を背けてしまった。
図星だ。俺は、どうしようもないほど亜紀に惚れている。

尚はそんな俺の様子をみて、ため息をついた。

「・・・でも、プライドがでるようになるんだったら、ひもなんて終わりじゃない?」

尚の、またもや鋭い言葉に、一瞬、体が固まる。

「だって、こっちはやしなってもらってる身だよ?頼られたいもくそもないじゃん。
俺らは言っちゃうと、日陰もんだよ。普通のカップルみたいな同等な関係なんて、ユメみちゃ駄目っていうかさ。」

今すぐに、耳をふさぎたい。
尚のいうことは、正しい。けど、言葉にされるとなんだかつらかった。

「まあ、専業主夫とかになるんなら話は別かもしれないけど。ほら。今の時代、その道もありじゃん。
それがいやで、その上で亜紀さんと、普通の恋愛がしたいんだったら、マトモに働いて、日陰からぬけだしてみたら?」

尚は淡々と言葉を吐き出す。
いうのは本当に簡単だよなあ、と心の中で思う。
けど、実際は無理なんだ。

「俺だって、それはできるならやってる。けど俺って中卒だし、なんか戸籍もよくわかんないし、まともな職につけるわけでもねーじゃん。
・・・それに、亜紀と約束したし・・・」

「なんて?」
尚は、そのくりくりとした目をこちらにじっと向ける。
その瞳は真っ黒で、すべてを見透かすことができるんじゃないかというほど、まっすぐだ。

「一緒に住んでる限りは、いつもそばにいるって・・・。だから、亜紀がシゴトから帰ってきたときには、俺は絶対家にいなくちゃいけないんだ。
これは俺が亜紀のヒモになるときに出された条件だからやぶれないし。やぶったら、俺のいる意味なんてないし。
・・・そしたら、仕事はじめるにしても、亜紀の仕事時間にあわせなくちゃだろ?なんか、むりじゃん。いろいろ不可能っていうか」

そこで言葉を区切ると、イスから立ち上がり、ソファーの下にひいてあるじゅうたんの方に腰を下ろした。
朝食をたべる気なんて、もう微塵も起きなかった。

「へえ〜なんか、すごいね」
尚は、半ば呆れたような半ば感心したような声をだし、うなずく。

「ふーん。そっか。束縛されてんだ、清。亜紀さんも、みかけによらず独占欲つよいよね。
でもまあその感じじゃ、清は専業主夫にでもなれるんじゃないの?結婚もうしこまれたりしちゃってさ。」

尚はそういって能天気そうにハハハと笑う。
けれど、俺の気分はちっとも明るくならない。

「亜紀は、お嬢様なんだよ・・・」

ボソリと吐き出された俺の言葉をきいて、尚の軽快な笑いがピタリと止んだ。

「まじ?」

尚の問いに、静かにうなずく。

「・・・それはキツイね。」

尚が若干深刻な面持ちを見せる。

「そーだよ。・・・だから、俺と亜紀が結婚するなんて、ありえないことなんだ。亜紀の家は、ひもとの結婚なんて認める家じゃないんだよ。
それどころか、今は亜紀は家を出てるから、おれの存在は知られていないだろうけど、もし何かあって亜紀の家族が俺のことを知ったら・・・」

 



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