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胸に咲いた黄色い花 [作者:えり]■19 「ねえ、亜紀。クーラーつけていい ? 」
「うん、ちょっと今日は、暑すぎるね」
彼女の返答を聞き、久々に、クーラーを入れる。
今日は熱帯夜かな。とぼんやり思う。 そろそろ、本格的に夏がちかづいてきているのだ。
クーラーの涼しい風を受け、体が一気に冷える。 その感覚が気持ちよくて、うとうとしながら、大きめのソファーの上にごろんと寝転がった。そのすぐそばのカーペットに、亜紀が腰を下ろし、ソファーにもたれかかってきた。 亜紀から、お風呂上りの、いい匂いがしてきた。
「清」
ん?といった風に片目をあけた。 亜紀が、切なそうな目でこちらを見ている。 その瞳に、胸が鳴いた。
「・・・どうしたの、亜紀 ? なんかあった?会社で」
「ううん。」 亜紀は首を振る。長く細い髪が揺れた。
「だけど・・・いろいろ、不安」 亜紀は、そう、ポツリとつぶやき、いきなり、首に両腕を巻きつけてきた。 驚いた俺は、うわっと思わず声をもらした。
「あのね、清」 さびしそうな、甘えたような声を漏らす。
「どした?」
俺は寝転んだ体制のまま、亜紀の頭を数回、安心させるようにたたいた。
「・・・消えないでね」
「え?」
その言葉を聴いた瞬間、時が止まった。
消えないでね?
それは、俺の台詞じゃないのか?
「亜紀?」
「・・・なんでもないよ」
それ以上、亜紀は何も言わなかった。 そして、俺も何も聞けなかった。
その続きを聞くことで、何かが変わってしまいそうで、俺は怖かったのだ。 そう、俺たちのこのあいまいな関係は、本当に儚いもので、何かが変化するのと同時に、壊れてしまうかもしれない。
今の二人の関係が崩れる。俺にとって、それが一番怖いことだった。 もし変化することで、万が一、何かが壊れてしまうのなら、俺は決してその道には足を踏み入れるつもりはない。
俺はただ、亜紀の体を優しく、抱きしめた。
だけど、亜紀が口に出した以上。 もしかしたら、もう何かが、変化しているのかもしれない。
ぼんやりと、そう、頭の片隅で思った。
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