スピッツ歌詞研究室 オリジナル小説
スピッツ歌詞TOPオリジナル小説胸に咲いた黄色い花TOP>胸に咲いた黄色い花_03

胸に咲いた黄色い花  [作者:えり]

■3

「何、怒ってんの。ほめたじゃん」

「怒ってないよ、別に。けど俺、亜紀以外にこんなこと言ったことないよ」

真顔で見つめると、亜紀は信じているのかいないのか、よくわからない顔で微笑する。
そして、くるりと背を向け、また料理の作業に戻ってしまった。

本当のことだった。今まで、好きだとか、愛してるとか、いったことはたくさんあった。
実際、付き合ってきた女性たちを愛していたから。

だけど、亜紀にするほど、くさい台詞を履くことはなかったし、そこまで愛する人もいなかった。
だから、こんなくさい台詞をはくのも、愛情を表現するのも、俺にとっては人生初めての体験だ。
恥ずかしいといわれれば、そうかもしれない。
だけどそれを感じさせないほど、亜紀という女性は、魅力的なんだ。

少し、体をずらして、台所で作業を続ける亜紀の後姿を見つめる。

−亜紀の魅力は決して「キレイ」なところではない。
整った顔立ちとか、すらりと伸びた手足だとか、日本人的な黒髪だとか、そんな見た目は全く関係なく、
俺が引かれたのは彼女の抱えている「陰」の部分だった。
いや、抱えている、より、彼女を構成している、のほうがあっているかもしれない。

あの、出会ったときに見た強いまなざし。そのヒトミを作る基の部分は、孤独だと、俺は一瞬で見抜いた。
なぜなら、ありがちだけど、俺も同じような孤独をもっていたから。

だから、俺と亜紀が惹かれあったのは必然なんだろう。
孤独なもの通しが、ひっつきあって、傷をなめあう。よくある話だ。

そして、その分俺と秋のつながりは強いようで弱い。「陰」の部分でしかつながっていないから。
それは当たり前なことで、お互い気づいていることだ。
そして、俺たちのような曖昧な関係がいつまでも続かないことも、わかっている。

棒が通ったようにまっすぐな亜紀の背中を眺めながら、苦い気持ちで、下唇をぐっとかんだ。




↓目次

【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】【14】【15】【16】【17】【18】
【19】【20】【21】