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胸に咲いた黄色い花  [作者:えり]

■15

「ねえ、亜紀。クーラーつけていい ? 」

 

「うん、ちょっと今日は、暑すぎるね」

 

彼女の返答を聞き、久々に、クーラーを入れる。

 

今日は熱帯夜かな。とぼんやり思う。

そろそろ、本格的に夏がちかづいてきているのだ。

 

クーラーの涼しい風を受け、体が一気に冷える。

その感覚が気持ちよくて、うとうとしながら、大きめのソファーの上にごろんと寝転がった。そのすぐそばのカーペットに、亜紀が腰を下ろし、ソファーにもたれかかってきた。

亜紀から、お風呂上りの、いい匂いがしてきた。

 

「清」

 

ん?といった風に片目をあけた。

亜紀が、切なそうな目でこちらを見ている。

その瞳に、胸が鳴いた。

 

「・・・どうしたの、亜紀 ? なんかあった?会社で」

 

「ううん。」

亜紀は首を振る。長く細い髪が揺れた。

 

「だけど・・・いろいろ、不安」

亜紀は、そう、ポツリとつぶやき、いきなり、首に両腕を巻きつけてきた。

驚いた俺は、うわっと思わず声をもらした。

 

「あのね、清」

さびしそうな、甘えたような声を漏らす。

 

「どした?」

 

俺は寝転んだ体制のまま、亜紀の頭を数回、安心させるようにたたいた。

 

 

「・・・消えないでね」

 

「え?」

 

その言葉を聴いた瞬間、時が止まった。

 

 

消えないでね?

 

それは、俺の台詞じゃないのか?

 

「亜紀?」

 

「・・・なんでもないよ」

 

それ以上、亜紀は何も言わなかった。

そして、俺も何も聞けなかった。

 

その続きを聞くことで、何かが変わってしまいそうで、俺は怖かったのだ。

そう、俺たちのこのあいまいな関係は、本当に儚いもので、何かが変化するのと同時に、壊れてしまうかもしれない。

 

今の二人の関係が崩れる。俺にとって、それが一番怖いことだった。

もし変化することで、万が一、何かが壊れてしまうのなら、俺は決してその道には足を踏み入れるつもりはない。

 

 

 

 

俺はただ、亜紀の体を優しく、抱きしめた。

 

 

 

だけど、亜紀が口に出した以上。

もしかしたら、もう何かが、変化しているのかもしれない。

 

ぼんやりと、そう、頭の片隅で思った。

 



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