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スパイダー [作者:那音]

■8

  どれだけ幻想的な夜を過ごしても、平凡な朝はやってくる。
  目覚まし時計の音で目覚めた私は、いつも通り朝食を食べて学校の仕度をして、とても退屈な学校に向かった。
  学校という場所は嫌いだ。夢があるわけでもない。勉強も好きじゃない。
  友人はいるけれど心の内を晒すほど仲がいいわけでもない、希薄な関係。そんな私にとっては、学校は退屈な場所でしかなかった。
  きっと退屈という病の病巣なんじゃないかと思う。ここにいるだけでまるで空気に毒が流れているかのように、じくじくじくじくと体が侵される。
  私は教室を抜け階段を登る。そうして行き着いた先、屋上への扉を蹴破るようにして開けた。
  開けた視界に広がったのは、雲ひとつない青一色の空。それから涼しい風と、解放感。
  暑苦しい教室に比べれば、屋上ははるかに深呼吸がしやすかった。
  屋上には誰もいない。それはそうだ。十分しかない休み時間にわざわざ屋上に来る生徒などいない。
  思ったより居心地が良さそうだから、次の授業はサボってしまおうか。
  私は扉を閉めて手すりに寄りかかった。涼しい風がゆっくりと髪をさらっていく。
  屋上からは、遠くの景色が一望できた。のっぺらぼうのような雲一つない快晴の下に広がるのは、これまた無表情な灰色の街。
  これが昨晩見た煌めく街だとは、信じられない気がした。
  もしかしたらあれは、クモが見せてくれた幻だったのかもしれない。あのクモだったらそれぐらいできそうだし。
  いや、それよりそもそも、クモ自体が幻なのかも。
  そこまで考えて、うんざりする。昨日だって同じことを考えていたのに、また私は疑っている。

「出てきてよ……クモ……」

  出てきて、証明して欲しかった。クモが幻ではないことを。この街が、この目で見たあの美しく煌めく街だということを。
  いつだって幻のようにふらふらと現れてふらふらと消えてしまうのだから、いつだってここにいて、幻じゃないと証明してほしい。

「証明ねえ」

「うひゃああっ!?」

  唐突な声に思わずオンナノコらしくない声をあげてしまった。恥ずかしい。

「そんなの必要ないと思うけど」

「ク……クモ……」

  声に導かれて貯水タンクを見上げる。そこには相変わらず胡散臭い風貌のクモが腰掛けて、私を見下ろしていた。
  出てきてくれた。幻じゃなかった。

「出てきたけど、もしかしたらまた幻かもしれないよ?」

  心を読んだようなタイミングでクモはからかうように笑い、私は少しだけムッとして頬を膨らませた。

「じゃあ何なのよ」

「なんだろうねえ」




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