スパイダー [作者:那音]
■5
なんだか気が遠くなってきた。こいつの発言は本当になんなんだろう。
「じゃあ……、二階の窓から入ってこれたのは? そこの窓、鍵がかかってたはずなのに開いてるなのはなんで?」
「俺に一階とか二階とか関係ないし。時空を踏めばこのぐらいの高さは簡単に登れるよ。それに鍵は開けてもらった」
「誰に?」
「時空に」
次々と繰り出されるわけのわからない答えに、がっくりとうなだれる。
あんな答えを返されれば絶対に誰もがこうなるであろうに、クモはきょとんとして「どうしたん?」
なんて聞いてくるから本気で殴り倒してやりたくなる。
「……ほんとふざけるのもいい加減にしてよ」
「え?」
私が怒っているというのに、クモはまだきょとんとして全然それを理解していなくて。だから私はもう、我慢しないで怒鳴った。
「ふざけんのもいい加減にしてって言ってるの! さっきから何なのよあんた!
勝手に人の家に入ってきたと思ったら訳のわかんないことべらべらしゃべって! もう出てってよ! 私に付きまとわないで!!」
叫びをぶつけるとクモは少し悲しそうな顔をして、私は少しだけ後悔した。
「……ねえ」
「なに、よ」
クモはうつむき気味だった顔を上げて、
「遊ぼう」
「……はあ?」
本日何度目かになる素っ頓狂な声を、私は思わずあげていた。
「あんた、人の話聞いてた?」
「聞いてたよ。迷惑だったらごめん。だけど今日はマリと遊びたいから」
「ちょ……、あんたどこまで自己中なのよ!?」
半ば無理矢理私の腕を掴み、クモは入ってきた窓のふちに再び足をかけた。
「え、ちょ、どこ行く気?」
「外だけど」
「外ってここ二階……っ!」
嫌な予感がして止めようとしたけれど、時はすでに遅かった。クモは私の腕を強引に引っ張って、気付いた時にはクモ共々空の中。
「ぅえええええええええあっ!?」
空を踏み落下し始めた体ががくんと止まり。
私は、クモにお姫様抱っこされていることに気付いた。
それから私は、クモが空に直接立っていることに気付いた。クモの足は空を踏んでいる。だけどクモの体は落下を始めない。
「じゃあ遊びに行こうか、プリンセス」
クモは胡散臭い顔に王子様を気取ったような笑みを浮かべて、言った。
「な……なんでええええええ!?」
私の悲鳴のような声を尾を引いて、クモは夜を駆けるように歩き出した。
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