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スパイダー [作者:那音]

■6

  見上げる夜空はのっぺりした闇で、星の一つだって瞬いてはいない。
  都会の空なんてそんなものだ。全てが霞んでぼやけて、何もかもが見えなくなる。
  だけどとりあえず、今の状況だけははっきりとわかった。

「……クモ」

「何?」

「今この状態でクモが手を離したら、私どうなる?」

「マリは空飛べないから、間違いなく落ちるね」

「離したらぶっ飛ばすからね!!」

「はーい」

  クモは私を抱っこしたまま(どういう原理だか知らないけど)どんどん空を登っていって、
  今では家の二階どころか高層ビルの屋上すら越えて、人間がありんこどころかミジンコに見えるぐらいの高さにいた。
  夏といえども上空は寒くて、それ以上にこんな上空は半端なく怖くて、私はクモにしがみついた。
  こんな胡散臭い男に抱きつきたくなんかなかったけど、この状況では仕方ない。

「……ねえ」

「うん?」

「なんでクモは空を飛べるの?」

  私はさっきからこれは夢なんじゃないのかと疑っていたのだけど、身を震わせる寒さもクモの腕の感触もまぎれもない本物で
  (ついでに手の甲をつねってみたりしたけれど痛くて)私はどうやらこれが夢ではないことを悟った。

「さっきも言ったじゃん。俺は時空を踏んでるんだ。だから高さなんて俺には関係ない」

「……全然わかんないんだけど」

「まあこれは考え方の問題だからね」

「……そうなの?」

  少し驚いた。こんな空を飛ぶなんていう一種の人類の夢は、そんな考え方なんかで叶えるものなのか。
「長く生きていれば、到底見えないようなものでも見えることがある。誰もたどり着けないような考えに行き着くことだってある。
考え方次第で、人は空だって飛べるんだよ」

  そういうクモの横顔は、何故か悲しそうに見えた。




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