スパイダー [作者:那音]
■12
「……リ? マリー、起きてー」
その声と体を揺すられる感覚に目を覚ます。
私はゆっくりと目を開けて、その視界にクモの姿を見た。
「ん……おはよ、クモ」
「おはよ。ていうかもう夕方だけどね」
「うん、夕方……夕方ぁ!?」
勢いよく体を起こすとクモは慌てて体を反らせた。
そうしなかったら私とクモはお互い頭をぶつけ合って悶えることになっただろうけど、でもそうじゃなくて。
「夕方……」
寝る前ほとんど真上にあった太陽は、遠くの稜線に沈もうとしていた。校庭からは部活動をする生徒の声が響いてくる。
「……俺、なんか悪いことした?」
「した……」
「何?」
「なんでもっと早く起こしてくれなかったの!?」
クモの頬をつかんで左右に引っ張ると、クモは心底ビックリした顔で、
「ふぇ!? らってられかきはらおほひれっへ……(誰か来たら起こしてって……)」
「フツー授業終わったら起こすでしょー!?」
「いへへへへへへへ!? マヒ! いはひ! いはいっへマヒー!!」
クモの頬を限界まで引っ張ってやったので(というよりは引っ張ったクモの顔が面白かったので)手を離してやると、
クモは赤くなった頬を涙目でさすった。
「全く……。午後の授業全部サボったのなんて史上初だよ……」
「うう……ごめんマリ」
「別にいいよ。もう」
お尻を叩いて立ち上がる。過ぎたことは仕方ないし、それに一時間で起きなかった私も悪い。
「じゃあさ、マリ」
「うん?」
「お詫びって言ったらなんだけど、一つ見せたいものがあるんだ」
「え? ……わあっ!?」
そう言うとクモは私に近づき、有無言わさずまたしてもお姫様抱っこした。
昨夜もされたけど、これはどうしても慣れない。ていうか慣れてたまるか!
「ここは人がいっぱいいるから、声はあげないでね」
「え、なあっ!?」
なんで、と問う前にクモは唐突に走り出していた。向かう先は落下防止用の手すり。
クモは走った勢いをそのままに、そこに足をかけて空中へ飛び出した。
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