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愛のことば [作者:那音]

■5

空は高くどこまでも快晴で、それは私に彼らの青い血を思い起こさせた。
彼が隔離病棟に入って二週間が経った。彼がいなくなったからといって特に変わったことがあるわけでもなく、
二週間は過ぎた。ただ、二週間がいつもより長く感じただけで。
面会には何度か行った。彼はいつも元気そうで、私の顔を見るといつものように優しい笑みをくれた。
彼はいつも読書や映画を見て過ごしているそうだ。
ちなみに彼がここに入るとき、彼の愛読書やDVDプレイヤーは彼の部屋に運び込まれたらしい。だから退屈はしていないらしい。
私は時々大学の講義のノートや彼が見たいと言っていた映画のDVDを、受付を通して彼に渡した。
彼はここにいるとこれしかやることないから頭よくなりそうだよと笑いながら言っていた。
私はというと面会の時少し泣いて、それ以外はいつも通り過ごした。

「大丈夫?」

ふっと物思いから覚めると、目の前では私を昼食に誘った友達が怪訝そうに私を見ていた。
彼女は大学に入ったときから私と仲良くしてくれる、数少ない私の友達だ。彼女はボーイッシュな短髪を茶色に染めている活発的な女性だ。本質的に孤独を持っている私の友達にしては、珍しいタイプだと思う。普通こういうタイプの人は、私を疎外する。

「うん、大丈夫だよ」

その質問は私の彼が隔離病棟に入ったことを知っている人から何度も聞かれたから、
私はほとんど反射的に頷いていた。だけど別にそれは嘘というわけじゃない。私は大丈夫。悲しくはないから。大丈夫。

「まああんたなら大丈夫だと思うけどさ、時々ぼーっとしてるから」

彼女はそう言ってかけそばを啜る。彼女は食べてるものからしてなんだかワイルドだと思う。
昼下がりの学食はそれでもそれなりに賑わっていて、耳には騒がしいけど不快ではない喧騒が届いてくる。
ちなみに私が食べているのはペペロンチーノ。

「まあ恋人に突然いなくなられて自暴自棄になったりしてないのは、偉いと思うけど」

「……そう?」

「うん。あんなにラブラブだったのに隔離されちゃったから、軽く心配してたんだけど」

確かに彼がいなくなってしまって悲しかったけど、自暴自棄とかそういうのにはならない。
だってそんなふうになったら、彼が悲しむ。彼にはそういうことはどんなに偽ってもバレてしまうから、
私は本当の意味でちゃんとしてなければならないのだ。

「……心配してくれたんだ。ありがとう」

そう言うと、彼女は一瞬キョトンとして、それから少し赤くなった。

「べ、別にそういうわけじゃなくて……ノート写させてもらう人がいないと私が困るから……」

つまり、彼女はそういう人なのだ。大雑把で男らしくて人の感情なんてどうでもいいように振る舞ってはいるけれど、
本当は人のことをよく考えてくれる、優しい人。

「うん。わかってる」

だから私は笑って、そんなふうに頷いた。

 



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