死神の岬へ [作者:直十]
■16
「この道を真っすぐ行けば、いずれ元の世界に戻れるよ」
すっかり日が昇った岬で、慶吾と玲奈は青年に見送られていた。
二人の眼前には地平線まで続く長い長い道が続いていて、それでも二人は晴れやかな表情をしていた。
ここに来たばかりのころの死んでいたような表情に比べれば、生まれ変わったような印象さえ受ける変化だった。
「……今まで、本当にありがとうございました」
二人深々と頭を下げると、青年は照れたようにそんなに改まんなくてもいいよー、と両手を振った。
「また、ここに来てもいいか?」
頭を上げてそう問うと、青年はちょっと困ったような顔をして、それでも小さく頷いた。
「まあ、ここに来るのは本当はあんまりよろしくないけどね。でも今の君ならそう軽率にここに来ようとはしないだろうし、ね」
そう言って軽くウインクして見せる。今の慶吾なら、生きる意味を見つけた慶吾なら、そう簡単に死を求めてやってくることはないだろう。
だから慶吾も、小さく笑ってみせる。
「何十年後かに、また会おうぜ。……あんたには何年後か知らないけどな」
「ええ。その時は、たくさんお話を聞かせてくださいね」
「ああ。約束する」
そうして慶吾は、手を差し出してきた青年と握手をした。
「……俺、あんたに会えてよかったよ」
自然とこぼれた言葉に、青年は笑う。
「僕も、けーごくんと会えてよかった」
頑張ってね、という言葉を背に受けて、慶吾は玲奈の手を取り歩き出していた。
道はひたすら長かった。それでも、二人は手を取り合いながら歩き続けた。道の先が見えないことが、ただ嬉しく思った。
その後、慶吾と玲奈は無事元の世界に戻った。
あの世界には十日ほどしかいなかったはずなのに、元の世界ではすでに三か月が過ぎていた。
戻った直後は心配していた家族に泣かれたり叱られたりしたが、慶吾の日常はすぐに戻ってきた。
仲間とはしゃぎ遊ぶ日々は、紛れもない幸福だった。幸福だと、ちゃんと確信できた。玲奈も、玲奈なりに幸福に生きているらしい。
そして慶吾は、日常の中ふと思うのだ。この先ずっと、自分は幸福だろう。
あの世界で見た青年やあの日の死の光景を思えば、そう確信することができた。
だけどそれのもっと先、幸福な人生を生き抜き、老いてあとは死を待つ身となったとき、きっと自分はあの岬を目指すだろう。
幸福に満たされ、この世の全てに満足した先に見るあの死神の岬で、きっと青年は待ってくれているのだろう。自分とまた出会う日を。
そしてそのとき彼は、今度こそ死にに来た自分を、笑って迎えてくれることに違いないのだ。
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