死神の岬へ [作者:直十]
■8
結局。
玲奈が連れて帰った野良犬は、死んでしまった。
口元に食事を差し出しても野良犬は伏せたまま食べようとせず、喉の奥に食べ物を押し込んで無理矢理食べさせても吐いてしまった。
そうして結局最後まで食べ物を受け付けなかった野良犬は見る間に痩せ細り、二日後の朝玲奈のベッドの横で冷たくなっていた。
玲奈は泣かなかった。泣かなかったけれど、酷く悲しそうな、もしくはやっぱり諦めてしまったかのような表情でいた。
それから青年に手伝ってもらい野良犬の墓を作り――それから、岬に犬の幽霊が彷徨うようになった。
目の前を白い犬が通り過ぎていく。あの白い人影とおなじ、犬の輪郭に煙を流し込んだようなもの。
顔も何もわからないからあの野良犬とは限らないのだが、青年が言うことには、ここに死んだ犬が迷い込んでくることは滅多にないから、
多分あの野良犬で間違いないだろうということだった。
白い犬が通った慶吾の目の前を、今度は玲奈が通る。玲奈は慶吾を一瞥すらせずに野良犬の後を追った。
玲奈はそうやって、一日中野良犬の後をついて回っている。
玲奈が何を思って野良犬の後をついて回っているのかわからない。
ただ慶吾はぼんやりと、そんなにあの野良犬に執着していたのかとそれだけを思った。
青年の話によるとこちらから幽霊の姿は見えるが幽霊からはこちらの姿は見えないらしいので、野良犬が玲奈を認識することはない。
だから玲奈がついて回ることで野良犬が何か思うこともない。認識すらしていないのだから。
だけど玲奈はついて回るのをやめない。野良犬がどうこうという問題ではなく、これは自分の問題なのだと言わんばかりに、
野良犬の魂を追いかけている。もしくはその先に、玲奈なりの答えを見つけているのか。
知らず、慶吾の口からため息がこぼれていた。きっと少なくとも、何もしないでふらふらしている自分よりは、行動している分ずっといい。
玲奈が何を思ってああいう行動に出ているのかわからないが、それでもその先に何かしら答えを見つけ出せるといいなと、
慶吾はまたぼんやりとそう思った。
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