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死神の岬へ  [作者:直十]

■2

  多分、死んでいるのと大差ないのだろうと思った。
  慶吾は何の変哲もない普通の学校生活を送っていた。何の変化もない、平坦で平穏な生活。
  それでも慶吾はそれなりに幸せではあった。
  友達と思いっきりはしゃげる学校は楽しかったし、それなりに本気で取り組んでいる部活も楽しかった。
  楽しいことは、とても好きだった。
  慶吾は確かに幸せだった。でも、死にたくないとは思わなかった。
  むしろ今死んでしまっても多分後悔しないだろうなと思っていた。幸せだったから、どこかで死ぬことすら望んでいた。
  それは多分、幸福なままで人生を終わらせてしまいたいという欲求だった。
  この先何が起こるのか分からない。それにこの先、今以上に楽しいことなんてきっとない。
  今が自分の人生の最良の時だとしか思えなかった。
  だからきっと、最良の時のまま死んでしまうことを望んでいた。死は、慶吾にとって永遠の安寧だった。
  だから、そんなことを思いながら生きている自分は、死んでいるのと大差ないんだろうと思っていた。
  幸福だから、死んでいる。そういう、生きる死体(リビングデット)。
  だから、なのだろうか。何の変哲もないいつもの帰り道にぼうっと歩いていたら、唐突に何もかもが嫌になるような衝動に駆られ、
  鞄を投げ捨て夜に向かう街に飛び込んでいた。
  携帯も財布も持っていない夜に、ネオンが光る街をどう過ごしていたのかは覚えていない。
  ただずっとどうしようもないほどの虚無に包まれていたことは覚えている。
  そして慶吾は行き着いた暗い暗い路地裏で、慶吾と同じく制服のまま路地にうずくまった玲奈と出会った。
  慶吾はなんで玲奈がこんなところにうずくまっているのか知らない。
  なんでそんな死んでしまったような目をしているのか知らない。
  だけど自分も同じような目をしているのだろうなと思ったときには、無意識に行こうか、と言っていた。
  慶吾自身どこに行こうと言ったのかわからなかった。でも玲奈は表情を動かすことすらせずにうん、と頷いた。
  そうして二人で手を取り合って、鍵が付いたままの古い車を盗んで、東の空に太陽が顔を出した頃、二人で出かけた。
  二人の間に会話はなかった。明確な目的地もなかった。だけどきっと、二人とも死に場所を探して出かけた。



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